私のボディーガード君
「三田村君、妃奈子の身辺はどうだった?」

 母の視線を受けて、ソファの近くで姿勢よく立っていた三田村さんがゆっくりと頷いた。

「お嬢様は何者かに尾行をされていました」

 三田村さんの言葉に背中が冷たくなる。
 尾行されていたの? 全然知らなかった。

「それに今夜は連れ去られそうにもなっておりました」

 髭面の男たちを思い出して、両足が震える。
 よろよろとまたソファに腰を下ろした。

「そう」
 深刻そうに母がため息をついた。

 あの髭面の男たちは母を脅迫している人たちだったんだろうか。
 三田村さんが現れなかったら、今頃、私は……。

 怖い。
 なんでこんな目に遭わなきゃいけないの。

「ひなちゃん、あなたの身に危険が迫っているのはわかったわね。だから三田村君をボディーガードとしてあなたの傍に置いておきたいの。彼は総理の警護も務めた程、有能よ」

 三田村さんをボディーガードとして傍に置く必要があるのはわかる。でも、だからって男の人と同居だなんて無理よ。

「勝手に私を巻き込まないで。脅されているって事は何か要求を飲めと言われているんでしょ? 相手の言う通りにすればいいじゃない」

 綺麗にアイメイクをした母の二重の目が険しくなる。

「大臣として脅しに屈する事はできないわ。屈してしまったら国益を損ねる事にもつながります。私の個人的な事でそれはできません」

 毅然とした態度で口にする母は、完全に大臣の顔。
 私の命が狙われても国益を優先させるのは大臣としては立派だけど、巻き込まれる私にとっては迷惑でしかない。相変わらずの自己中ぶりに腹が立ってくる。
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