私のボディーガード君
「ひなちゃん、お願いします。この通りです。三田村君を傍においてください」
 テーブルの上に両手をついて母が頭を下げる。

 涙を浮かべて頭を下げる母の姿は感動的だけど、ただのパフォーマンスにしか見えない。目的を達成する為ならプライドも捨てて、頭を下げるのが政治家だ。

「半年後には大臣も国会議員も辞めます。私が辞めればひなちゃんも狙われなくなります。だから、それまで三田村君を傍におかせて下さい」

 国会議員を辞める?
 そこまで母が口にしたのは初めて……。

 国会議員の仕事に命を懸けている母が政治の世界から身を引くなんて、信じられない。

 驚いていると、顔を上げた母が涙を拭きながらこっちを見た。

「『国会議員を辞めないと娘を殺す』と脅されているの。今はどうしても辞められません。でも、半年経ったら必ず辞めるから。ひなちゃん、巻き込んでごめんね」

 ――ひなちゃん、巻き込んでごめんね。

 12歳の時にも同じ事を母に言われた。
 誘拐されて、母の所に戻って来た時、ギュッと私を抱きしめて、泣きながら何度も「巻き込んでごめんね」と謝っていた。

 今、目の前にいる母はあの時と同じ顔をしている。
 本気で国会議員を辞める気なのかもしれない。

「半年後だったら辞められるの?」

 母が強く頷く。

「必ず辞めます。お願い、ひなちゃん、私が辞めるまで三田村君と一緒にいて下さい。どうかお願いします」

 再び頭を下げた母が大臣ではなく、普通のお母さんみたいに見えた。

 これだから政治家は嫌い。情に訴えるのが上手なんだもの。
 言いなりになるものかと思っていたのに、情けない程、心がぐらぐら揺れる。

 三田村さんと半年同居か……。

 男性アレルギーなのに、できるのかな。
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