私のボディーガード君
立ち止まって、三田村君の方を向いた。

「どうされました?」
スーツの上に黒いチェスターコートを着る三田村君がこっちを見る。

「試したい事があるの。三田村君、動かないでね」
「私の目の届く所にいて頂けるのなら」
「うん。逃げ出したりはしないから」
三田村君が口の端を僅かに上げて微笑む。

少しだけ緩んだ表情が綺麗で、胸がギュッと掴まれる。
源氏物語を読みながら想像していた光源氏みたい。

ドキドキする鼓動を感じながら、ショートブーツを履く足を一歩踏み出した。
三田村君との距離が70㎝ぐらいになる。まだ大丈夫。怖くない。

さらに一歩。
距離が40㎝。

もう三田村君が目の前。
仄かにムスクの香りがする。とってもいい香り。

近くで見る三田村君、背がすごく高くて、男らしい。

「妃奈子さん?」
「そのままで」
「でも」
「お願い」

小さくもう一歩踏み出した。
黒い革靴の爪先とキャラメル色のブーツの爪先がくっつきそう。こんなに近くまで近づけた。ドキドキするけど、三田村君とはこの距離でも大丈夫だ。

ほっとして顔を上げると、びっくりしたようにこっちを見る黒い目とぶつかる。いけない。私が大丈夫でも、三田村君は嫌だよね。

「ごめん。近すぎて不快だよね」

慌ててニ歩下がった。

「不快ではありませんが、あの、大丈夫なんですか? 男性が苦手なのでは?」
「うん。苦手よ。でも、三田村君は大丈夫みたい」

黒い瞳が驚いたように見開いた。
< 51 / 210 >

この作品をシェア

pagetop