私のボディーガード君
「大丈夫な場合があるんですか?」
「政策秘書の秋山さんは子供の頃から知っているから、30㎝ぐらいの距離で大丈夫。それから、先週別れた元カレもそれぐらいは許せた。でも、触れられるのはダメだった」
「なるほど。親しい方だと30㎝の距離まで近づいても大丈夫なんですね」

黒い瞳がじっとこっちを見る。

「何?」
「私とは爪先がくっつきそうな距離まで気を許して頂いているという事ですか?」

改めて言葉にされると照れくさい。なんか三田村君に好意があるみたい。でも、気を許しているって事になるのかな。

「まあ。そうかな。三田村君にはみっともない所を最初から見せているから、あまり警戒していないのかも」

クスッと穏やかな笑い声がした。

「みっともなくなんてないですよ。酔ったあなたは可愛らしい方だから」

胸がドキンッと脈打った。

可愛らしい方……。
男の人に、そんな風に言われたの初めて。

嬉しくて頬が緩みそうになるけど、真に受けてはいけない。三田村君は相手の気持ちよくなる事を言うのが仕事の議員秘書なんだから。

政治家と議員秘書とホストに誉められたら警戒しなさいって前に秋山さんが言っていたし。

そんな事を考えながら三田村君を見ると視線が合って、気まずそうに三田村君の方から逸らした。

「えっと、すみません。余計な事を言いました」
「いえ」
「妃奈子さん」
「はい」
「私に触れてみますか?」

三田村君が右手を差し出した。
女性とは違う大きな手にドキッとする。

そうよ。触れて大丈夫か確かめなきゃ。

ドキ、ドキ、ドキ……。
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