私のボディーガード君
「皆さん。頭の中で今、物凄いイケメンを想像して下さい。それが光源氏です。とにかく源氏物語の中では、どれだけ光源氏が美しい方であるか、繰り返し語られます。作者の紫式部は女性ですから、千年前も今も女性は美しい男性が大好物だって事です。それでは今日の講義はこれで終わります。皆さん、明日からの冬休み、楽しんで下さいね」

マイクを切ると、学生が教壇の前に来た。

「先生、サインお願いできますか」

差し出されたのは「光源氏に聞く恋愛相談」
今週も持って来てくれる学生がいるとは。本当にこの本、売れているのね。

そういえば重版になったって、担当の田中さんが電話くれたっけ。
私生活はいい事ないけど、仕事は順調だわ。

「いいですよ。お名前は」
高坂(こうさか)です。高い坂って書きます」

サラっと高坂さんの名前を書いて、その隣に佐伯妃奈子とサインをした。

「はい、どうぞ」
サインした本を渡した時、高坂さんのパッチリとした大きな目と合う。

あっ……!
浅羽と一緒にいた女の子……。

「ありがとうございます。家宝にします。私、佐伯先生の大ファンで。あの、昨日の夜は、ディナーの席、本当にありがとうございました」

やっぱり、あの子だ。ゆみちゃんだ。
うちの学生で、しかも私の講義を取っていたなんて知らなかった。

笑顔が引きつりそうになるけど、大人として平気なふりをしなきゃ。

「いいのよ。ディナーは楽しかった?」
「はい。どのお料理も最高に美味しかったです」

でしょうね。
有機野菜を使ったフレンチ、私も食べたかった。
< 54 / 210 >

この作品をシェア

pagetop