私のボディーガード君
「浅羽さんって素敵な人ですよね」

ゆみちゃんがうふっと幸せそうに微笑んだ。

「私、自分に自信がなくて。いつも地味な服ばっかり着ていて、でも、浅羽さんがゆみちゃんはピンクが似合うよって、ワンピースを選んでくれて。昨日、初めて美容院でメイクもしてもらって、眼鏡も外してコンタクトにもして。佐伯先生も私に気付いていませんでしたよね? 私、一年の頃から先生の講義取っているんです。いつも後ろの席で」

言われてみれば黒縁眼鏡をかけて、いつも電柱みたいな色の服を着ている子がいたような気がする。

周りの子が華やかだから、逆に目だっていた。

今の彼女はピンクのニットワンピを着ていて、メイクもしちゃって可愛らしい。

随分と変身したものね。

浅羽の影響で変身したと思ったら、なんか面白くない。

「ごめんなさい。次の講義の用意があるから」

話を終わらせたくて、腕時計を大げさに見た。

「あ、先生、お忙しいのに、すみません。つい、嬉しくて。あの、今度、先生の研究室に遊びに行ってもいいですか?」

キラキラとした目で見つめられて、嫌だとは言えない。

「いいわよ」

ゆみちゃんが「ありがとうございます」と頭を下げた。

きっと私と浅羽がつき合っていた事を知らないのね。
まあ、つき合っていたと言っても一ヶ月ぐらいで、手も繋いでないけど。

ゆみちゃんは浅羽とどこまで関係を深めているんだろう?
手は繋いだ? キスはした? もしかして体の関係も……。

もう浅羽とは関係ないのに余計な事ばかり考えてしまう。胸も締め付けられるように痛い。浅羽の事、平気だと思っていたのに、全然平気じゃない。思っていたよりも私、浅羽の事、引きずっている。

「佐伯先生、大丈夫ですか? 顔色が真っ青ですけど」

顔を上げたゆみちゃんが心配するようにこっちを見た。

「大丈夫よ」

ゆみちゃんに背を向けて、慌てて教室を出た。
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