私のボディーガード君
 おんぶされたのに、私、吐かなかったの?
 信じられない。

「それで一晩中、ピーピー泣かれて。一ヶ月つき合った男にクリスマス前にふられたとか、何でも条件を飲むって言ったのに、最後にタブーを破って恥じをかかされたとか言いながら」

 ひゃー。恥ずかしい。
 なんて情けない事を話したの。

「あと、そうだ。私の光源氏はどこにいるのって言っていましたよ。光源氏って、『源氏物語』に出てくるいろんな女性と関係を結ぶ男ですよね。ひょっとして、浮気性の男が好きなんですか?」

 私の源氏の君を浮気性の男だと侮辱するのは許せない。

「平安時代は結婚していても複数の女性と関係を持つのは普通の事なの! 今の感覚で私の源氏の君を侮辱しないでくれる? それに源氏は関係を持った女性の面倒をちゃんと最後まで見る程、包容力があったし、教養も高いし、芸術的なセンスもあったし、仕事もできたし、女性に対しても一途なんだから」

「光源氏が一途? 複数の女性に手を出していたやつが?」

「そうよ。一途なのよ。源氏が幼い頃に亡くなった母の面影が残る継母の『藤壺(ふじつぼ)』を愛して、許されぬ恋に悩んで、それで藤壺に似ている10歳の『(むらさき)(うえ)』を理想の女性に育てて、報われない藤壺への想いを重ねながら紫の上を愛するんだから」

「それって、ただのマザコンでは? 母親の面影が残る女性を愛するなんて俺はご免です。マザコン男がいいなんて、変わった趣味ですね」

 くぅー。何、この男! 腹立たしい。
 よくも私の光源氏をマザコンだなんて言ってくれたわね。
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