私のボディーガード君
昨日から泊まっているホテルで朝ご飯を食べ終わった後、三田村君が散歩に行きませんかと言って、灯台まで連れて来てくれた。

ホテルから灯台に来るまで人はほとんど歩いていなかった。観光客で賑わうのは夏らしく、冬は閑散としているよう。

パーソナルスペースを気にしないで済むので、とても気楽。灯台の展望デッキも三田村君と2人きりだし。

絶え間なく響く波の音も、冷たい潮風も心地いい。一日中、ここにいたくなる。

「妃奈子さん、寒くないですか?」

海を見つめていると、心配するように三田村君が言った。

「大丈夫よ。あ、でも、三田村君は寒い?」
「少し。でも、防寒グッズがありますから」
三田村君がコートのポケットから缶コーヒーを取り出した。

「来る前に自販機で買ってたやつね」
「どうぞ」
缶コーヒーを差し出された。

「いいの?」
「もう一個ありますから」
反対側のポケットから三田村君が種明かしをするように缶コーヒーを出した。

「二つ買ってたんだ。じゃあ、いただきます」
ブラック味の缶コーヒーを頂いた。缶はまだ温かくて、手のひらで包んで暖を取った。隣を見ると三田村君も同じように缶コーヒーをホットカイロのようにして持っている。

同じ事をしているのが、ちょっとカップルみたいで、くすぐったい。

「何ですか?」
三田村君を見てにやけていたら目が合った。

「なんか楽しくて」
「そうですね。楽しいですね。仕事中だと忘れそうです」
「そっか。三田村君は仕事中なのよね。なんかごめんなさいね」
「いいんですよ。妃奈子さんのおかげで、この町に帰って来れましたから」
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