夏恋サテライト
「エレベーター混んでるから階段で行こっか」
「ん」
人混みから少し外れた所にある階段はやはり人気がなかった。
あ、ここなら人いないしもしかしたら……なんてね。
棗に限ってそんなことあるはずが
「咲鈴」
「ん?……ん、なんで」
階段を私より1歩先に下っていた棗が踊り場の一段下で立ち止まった。
普段あまりない棗が私を名前で呼ぶ時は、何かが起こる合図。
そんなことをどうしてか少し忘れていたらしい
「悪くねぇな、理想の高さってヤツ」
私の顔がボッと音が聞こえそうなくらい真っ赤に染まり、しれっとした棗は先に階段を下っていく。
コノオトコ、ホントニ、ズルイ。
階段で、私より一段下に棗。
一段たぶん20cmくらい。
触れるだけのキスをした棗は悪くねぇなって言った。
たった、それだけ。