夏恋サテライト
教室に現れた棗。
そのオーラに、近寄りがたさに教室に溜まっていた女子たちはさっと道を開けてそこを棗が歩いてきた。
神なの?と、突っ込みたくなるような光景だった。
それはいいんだ。よかったんだ。
「ねえ棗」
「…」
「棗ってば」
私の手首を掴んで足早に通学路を進む棗。
1歩の歩幅が違うから私はいつもより早く歩く棗について行くことが精一杯だった。
そんな私に気づく素振りもなく歩く棗はいつもよりどこか余裕なさげ。
怒っているからか、なんなのか。
いや怒ってるの、どちらかと言えば私なんだけど。
毎日のように他の女の子と一緒にいて、私のことほったらかしで、他の子と付き合ってるなんて噂流しちゃって。
おまけにその女の子からは喧嘩を売られて、棗を返してなんて言われて。
ああ、なんかイライラしてきたかも
「離して!」
ブンと思い切り手を振り払えば棗の足はようやくピタリと止まる。
そして振り返った彼の目は見開かれ漆黒の黒目が揺れたような気がした。
まるでさっきまで意識がなかったかのようだ。