夏恋サテライト
「…うち、来な」
「…っ」
知らぬ間に棗の家の方向に向かっていたらしく、泣き続ける私は通行人の視線を浴びながらも棗の家に足を運ぶ。
家に向かう10分の間、流れ出した涙は止まらなかった。
何度か足を運んだこの部屋。
棗の香りに包まれる大好きな空間が今はちょっとだけしんどい。
棗の香りも、この部屋も、無言の空間も。
夏川さんはこの部屋来たことあるのかな、とか
棗とハグしたりキスしたりしてたのかな、とか
中学生の時なら大丈夫でしょと思う反面、嫌な想像ばかり掻き立ててしまう。
「咲鈴、話したくない?」
「…っ」
「帰るなら送る。勢いで連れてきただけだし」
ごめん、なんて珍しくしおらしい棗が立ち上がる。
違う。
帰りたいんじゃない。
話したくないわけじゃない。
私はバカだから、それ以前に頭が回っていないんだ。