夏恋サテライト
「…ちがう」
「…え?」
「棗ずっと女の子と一緒にいるし、可愛いしスタイルいいし、元カノだし、喧嘩売られたし…棗は久しぶりに会ったのに機嫌悪いし私の顔見ないし…!」
「…わかった、ごめん。一旦落ち着いて。全部聞くから」
さっきまでテーブルを挟んで向かいに座っていたのに、大泣きしながらまくし立てる私を落ち着けるかのように隣に座る。
そしてかたかたと震える右手に自分の手を重ねてきた。
ずるい。こんな落ち着け方。
頭はごちゃごちゃなままなのに、口からこぼれかけていた棗を傷つけかねない言葉は寸前で止まった。
いま、ひどい事言いかけてたかもしれない。
その事実が再び自分自身を傷つけて、勝手に涙が溢れてくる。
その涙を棗は何度も何度も優しく指ですくう。
「ごめん、俺が悪い」
「…っ、」
涙で滲む視界、私を見つめる棗はどこか切なそうだった。
いつも変わらない表情も少し歪んで見える。