夏恋サテライト
「…夏川?」
大好きな棗の声が夏川さんの名前を呼ぶ。
それだけで胸がぎゅっと締め付けられた。
聞きたくない。ここにいるのが辛い。
今は…棗といることすら辛く感じてしまうのかもしれない
「…ごめん、俺あいつに会ってくる」
「……え?」
_絶望
その一言だった。
抱きしめていた力が緩み私をそっと離し、辛そうに眉を寄せる棗。
夏川さんの所に行くの?
やだ。やだ。やだ。
行かないで。
そう思うのに、言葉はひとつも出てこなかった。
「……あいつの親父が出所してた。家の前に来てるって。……他に頼れる人はいないって、」
「わかった」
嘘つき。
分かってない。分かんない。
やっぱり行かないって、言って
なんて
夏川さんは棗以外頼れる人がいないのに。
最低だな、私。
夏川さんのことはひどい人だと思う。
でも自分も最低で、汚くて醜い。
もう、しんどいや。