夏恋サテライト
「私が棗に電話した時、一緒にいたんでしょう?ごめんねぇ、棗呼び出しちゃって」
すぐ来てくれたんだぁ、なんて言われた途端ぎゅっと拳を握った。
爪がくい込んで、血が出てしまいそうなくらい。
でも冷静でいるにはそれしか方法がないと思う。
「すぐ来てくれたよ、棗。血相変えて走ってきてくれて、何もされてないかって。泣いてる私を抱きしめて…」
「あの!……もういいですか」
急いでるので
そういえば夏川さんはニヤリと笑った。
勝ち誇ったようなその笑みに、ついカッとなってしまう衝動に駆られる。
でも手を出せば負けだと思うから
終わりだと思うから。
平穏であるために、私はこの人と一緒にいては行けないと思う。
「へぇ、逃げるんだ」
「…っ、あなた何なんですか…!?」
「別れてよ、早く。…棗は私のなの!私には棗しかいないの!だから戻ってきたの!なのに…なのにあんたみたいなガキみたいな彼女作って、ヘラヘラしちゃって、バカみたい!」
我慢の限界だった。
握っていた手を振りかざし、彼女の頬を叩くほんの一瞬前。
バシッ
「いい加減にしろよ、お前。…こいつに何してんの」
寸前で私の手を掴んで止め、間に入る背中。
一人しかいない、大好きな人の背中だった。