夏恋サテライト
「動ける?舞川さん、泣き崩れて歩けないから彼氏さんと柏崎と食堂で待ってる」
「美紗が…!?」
「ごめん、俺のせい。咲鈴だけじゃなくて大事な友達まで泣かせた」
棗がしおらしいのは変な感じがした。
でもこの優しさも、美紗の涙も、棗の頬の傷も恭ちゃんの告白も
全部全部私への愛がこもっているように感じて胸がきゅっとなる。
「ほっぺ、いたい?」
「口の端切れただけ。大したことない」
「…なんで…来てくれたの?」
「…ふは、もう泣かないでよ」
今度は悲しい涙じゃない。
皆からの愛を痛感して涙が出てしまうんだ。
「柏崎から電話来て、出たら相手は中村だった。咲鈴が倒れたって…咲鈴が寝れてなかったこともろくに飯食わずに痩せてってるのも聞いて、気づいたらもう家飛び出してた」
「恭ちゃん…」
「なんで俺に連絡したんだって聞いたら、あいつ言ってたよ。『俺が好きになった夏目咲鈴にはお前が必要なんだ』って。」
恭ちゃんはずるい。
私にだけじゃなくて、私に見えないところでも優しさを大放出している。
私に対しても、ポイント稼ぎだからとか委員長だからとか何とか言っていつも無限の優しさを与えてくれるんだ。
あんなにも優しい人、世界のどこを探しても他にいないような気がしてしまう。
「あいつに…中村に惚れた?」
「…ずるいよ、この期に及んでそんなこと聞くの。私棗じゃなきゃ…ん」
「限界、食堂行く前に2分ちょうだい」
棗も私も、お互いが空白を埋めるようにキスをした。
久しぶりのそのぬくもりは、ちょっぴりしょっぱい涙の味がした。