夏恋サテライト
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「棗〜」
次に目を覚ましたのは耳慣れた声が名前を呼んだ時。
うっすら目を開け、夕焼け空が見えて放課後だと気づく。
そしてまた目を瞑りたぬき入りをすることにした。
「みっけ」
カーテンを開ける音がして、近くに人の気配と花のような匂い。
このやわらかい匂いはあいつの香水か柔軟剤。
なんて声と気配と匂いで気づく自分が正直キツイ。
「棗起きて、放課後だよ帰ろうよ〜」
「…」
ここで例のごとくいじめるつもりで目を開けない。
器が小さいもので、さっきの腹いせに困らせてやろうとも思った。
「…起きない眠り姫にはちゅーしちゃうぞ」
さすがに耳を疑った。
恐らくぴくっと反応してしまっただろうけど、幸い鈍いこいつは気づいてない。
キスなんか、こいつが俺にするわけない。
こいつの好きは “ 推し ” と同じ好きだ。
俺のそれとは意味が違う。だから告ってやらない。
こいつが俺を、本気で異性として意識するまで。
本気で恋愛として俺を好きになるまで。
この調子じゃ何年あっても足りなそうだけど。