隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 カフェの入り口には、お土産用の棚が併設されていた。部長が会計を済ませている間、何気なしにそこを見ていた。

 さっさと財布を取り出しレジに向かう部長を追いかけ「私も出しますっ」と財布を取り出したのだが、部長にはそれを手で制されてしまったのだ。

「あ、これ……」

 目についたのは、小ぶりな白猫のぬいぐるみキーホルダーだった。
 ころんと手のひらに収まるほどの大きさだ。
 手に乗せていると、会計を終えたらしい部長が私の手元を覗いてくる。

「猫宮、それ――」

「似てますよね! 公園の、野良猫ちゃんに」

 振り返り反射的にそう言った。
 部長は一度、目をぱちくりとさせてから、ふっと目元を和らげる。

「ああ、似ているな。シロにそっくりだ」

 部長はそう言って、私の手に乗るキーホルダーをひょいっと取り上げる。

「すみません、これもお願いします」

 部長はレジでそう言って、キーホルダーを包んでもらっていた。

 ――よほど気に入ったのかな、可愛いもんなあ。

 部長、本当に猫が好きなんだなあ、なんて思っていると、後ろで待っていた私の目の前に、ひょいっとその袋が現れた。

「ほら、猫宮」

 一瞬戸惑い、意味を理解してさらに戸惑う。

 ――え? なんで私に?

「猫宮が俺のペットだって印だ。持ってろ」

 部長は意地悪そうな笑みを浮かべて、そう言った。
 どうやら、私はまだ部長にとってペットという位置づけらしい。

「え、でも……」

「俺に懐いてくれるのは、猫宮だけらしいからな」

 急に口元をほころばせてそう言われたら、ノーと言うのもはばかられる。
 仕方なく、私はそのキーホルダーを受け取った。

 *

 その後てっきりそのまま帰るのかと思っていたが、部長は近くのショッピングモールへと私を誘った。
 買い物があるというのでついてきたが、とある女性用のアパレルブランドの前で部長は立ち止まる。

「好きなものを選べ」

「いやいやいや、無理ですっ!」

 服に不自由はしていないし、部長には申し訳ないが私の普段着ているのはもっとファストファッションのブランドだ。
 顔の前で手を振っていると、部長はその手を止めるように掴む。そのまま私の手をそっとおろすと、ぎゅっと繋ぎなおされた。

「これはペットへの初期出費だ」

 耳元で言われ、ドキッと肩が震える。
 そうしている間にも、部長は店内へ。私はそんな部長に手を引かれて、お店の中へと入るのだった。

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