隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
「猫宮はいつでも根詰めすぎだ。少し、休憩した方がいい」

 そう言われ、コーヒーを一口頂く。部長は職場でもコーヒーを淹れるのがうまいらしい。
 何でもできてしまう彼を、うらやましいと思う。

 ほう、と一息ついていると、部長が私のパソコンの画面をじっと見つめていることに気づいた。

「どうしました?」

「……猫」

 ――猫?

 思っていると、部長はデスクの端に置いていある白猫のぬいぐるみキーホルダーを指差した。先日、部長に買ってもらったものだ。
 どうやら、見ていたのはそっちらしい。

「ここにこうやって置いておくと、いつも部長に見られているような気がして。気が引き締まるので」

 言いながら、コーヒーを脇に置きデータ入力を始める。
 今は、なぜか本物の部長が隣にいる。余計に気が引き締まる。
 
 なのに。

「少し休憩しろと、言っただろう」

 部長はため息をこぼす。
 申し訳なくなって「すみません」と言いながらもう一度コーヒーに手を伸ばした。

 けれど、そわそわして落ち着かない。
 昨日、部長と一日中自宅のソファでまったりと時間を過ごしていたことを思い出してしまう。

 ちらちらと画面を確認するように視線を動かしてしまい、部長が(いぶか)しげな視線をこちらに向ける。

「猫宮」

「はい!」

 思わず背筋が伸びて、大きな声が出てしまった。

「そんなに仕事がしたいなら、俺と話をしよう」

 え? と目を見開いたけれど、部長は大真面目な顔をして続ける。

「なんでもいい。俺に聞きたいことを聞け。部署のことでも、会社のことでも」

「でも、なんで急に……」

「新人の部下と仲を深めるのは、上司の立派な仕事だろう」

 部長は表情を全く変えず、無表情のまま言い切った。

 部長に聞いてみたいことはたくさんある。
 なにせ、私の憧れの人なのだ。
 その強さはどこから来るのか、その仕事の速さや頭の回転の速さの秘訣は何なのか、私にもそれができるのか……

 けれど、私の口から出てきたのは、全然違う言葉だった。

「部長は、どうしていつも“冷徹サイボーグ”なんですか?」


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