隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
週末。
梅雨の晴れ間、土曜日の上野の動物園は、家族連れでにぎわっていた。
部長がなぜか動物に嫌われていることは知っている。先の小動物カフェでは、散々な目に遭った。
動物園を提案した時も、部長は一瞬顔を引きつらせた。けれど、手に乗せるわけではないし、見るのは大きな動物だ。
きっと、見るだけでも楽しいだろうし、癒されるだろうと部長にプレゼンすると、部長は「それなら」と私に任せてくれたのだ。
「部長、見てください! ゾウですよ、ゾウ!」
動物園を入ってすぐ目に入った大型動物に思わずはしゃいでしまった。
指差し部長に伝えると、部長はフッと鼻で笑う。
けれど、仕方ない。動物園に来たのは久しぶりなのだ。
「猫宮、今日は猫というより犬みたいだな」
言われて、さすがに大人げなかったかと頬が熱くなる。指差していた手を下ろしうつむくと、その手を不意に部長が取る。
「え?」
強く握られ、胸がドキリと鳴る。顔を上げると、部長はかすかに笑みを浮かべていた。
「これはリードの代わりだ。迷子になられても、困るからな」
部長の言葉に、余計に恥ずかしくなる。そんなにはしゃいでいたのか、と。
同時に、私と部長の関係を改めて思い知らされた。今日は、私と部長はペットと飼い主だ。それを、はき違えちゃいけない。
それなのに。
「ほら、いくぞ」
手を引かれ、歩き始める。
そうしているだけで、勝手に胸が高鳴るのだから仕方ない。心臓の速さは、自制することはできない。
間違えないように。この気持ちを、認めないように。
芽生えはじめた淡い思いの芽を摘んで、私は部長と動物園を回った。
*
――なんでこうなるの?
動物園に来て、まだ三十分しか経っていない。けれど、もう今日は動物を見るのは無理だと、悟り始めていた。
ゾウは見えた。遠くから、大きな姿が。
けれど、ゾウの檻の近くに行けば、ゾウたちはなぜか向こう側に行ってしまう。そのせいで、檻の反対側からは歓声が上がったのだが。
人だかりのできていたトラの食事タイム、目の前で肉を食べていたという透明な檻の前まで私たちが来ると、トラはなぜか餌の肉を咥えて木陰の向こうへ行ってしまった。
ライオンの檻に至っては、どこにいるのかわからない。
キリンもサイも日陰のある奥の方に隠れてしまってよく見えないし、カバはずっと水の中にいる。
「あ、暑いんですかね~彼らも」
アハハと苦笑いを浮かべるけれど、部長はもっと気まずそうな顔をしていた。
仕方なく、私たちは大きな池の見えるテラスのベンチに腰かけた。
梅雨の晴れ間、土曜日の上野の動物園は、家族連れでにぎわっていた。
部長がなぜか動物に嫌われていることは知っている。先の小動物カフェでは、散々な目に遭った。
動物園を提案した時も、部長は一瞬顔を引きつらせた。けれど、手に乗せるわけではないし、見るのは大きな動物だ。
きっと、見るだけでも楽しいだろうし、癒されるだろうと部長にプレゼンすると、部長は「それなら」と私に任せてくれたのだ。
「部長、見てください! ゾウですよ、ゾウ!」
動物園を入ってすぐ目に入った大型動物に思わずはしゃいでしまった。
指差し部長に伝えると、部長はフッと鼻で笑う。
けれど、仕方ない。動物園に来たのは久しぶりなのだ。
「猫宮、今日は猫というより犬みたいだな」
言われて、さすがに大人げなかったかと頬が熱くなる。指差していた手を下ろしうつむくと、その手を不意に部長が取る。
「え?」
強く握られ、胸がドキリと鳴る。顔を上げると、部長はかすかに笑みを浮かべていた。
「これはリードの代わりだ。迷子になられても、困るからな」
部長の言葉に、余計に恥ずかしくなる。そんなにはしゃいでいたのか、と。
同時に、私と部長の関係を改めて思い知らされた。今日は、私と部長はペットと飼い主だ。それを、はき違えちゃいけない。
それなのに。
「ほら、いくぞ」
手を引かれ、歩き始める。
そうしているだけで、勝手に胸が高鳴るのだから仕方ない。心臓の速さは、自制することはできない。
間違えないように。この気持ちを、認めないように。
芽生えはじめた淡い思いの芽を摘んで、私は部長と動物園を回った。
*
――なんでこうなるの?
動物園に来て、まだ三十分しか経っていない。けれど、もう今日は動物を見るのは無理だと、悟り始めていた。
ゾウは見えた。遠くから、大きな姿が。
けれど、ゾウの檻の近くに行けば、ゾウたちはなぜか向こう側に行ってしまう。そのせいで、檻の反対側からは歓声が上がったのだが。
人だかりのできていたトラの食事タイム、目の前で肉を食べていたという透明な檻の前まで私たちが来ると、トラはなぜか餌の肉を咥えて木陰の向こうへ行ってしまった。
ライオンの檻に至っては、どこにいるのかわからない。
キリンもサイも日陰のある奥の方に隠れてしまってよく見えないし、カバはずっと水の中にいる。
「あ、暑いんですかね~彼らも」
アハハと苦笑いを浮かべるけれど、部長はもっと気まずそうな顔をしていた。
仕方なく、私たちは大きな池の見えるテラスのベンチに腰かけた。