隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 ひとしきり泣いたら、涙が止まった。あふれ出して、もう止まらないと思っていたのに。
 私の洟をすする音に、部長は腕を緩める。そうされたら、しがみついていた手を離さなければいけない気がしてくる。

「ぶ、ちょ……、泣い、て、ごめんな、さい……」

 しゃっくりのようにしか話せない。そんな滑稽な自分に、ため息がこぼれた。

「謝るな。泣くのは悪いことじゃない」

 でも、泣くのは弱い自分を認めてしまったようで悔しい。苦しい。
 私は、強くありたいのに。

 いつの間にか握ってしまった部長のシャツから手を離したいのに、離したくない。
 矛盾した気持ちが、私をまだ部長にしがみついたままにさせる。
 本当に、大人げない。子供みたいだ。ちがう、こんなのは赤子だ。

 部長は腕の力を緩めたものの、私を抱きしめたままでいてくれた。
 こうして部長に寄りかかって甘えているうちは、私は強くなれない。
 部長の強さには、追いつけないと思い知らされる。

 結局、私は弱い。
 部長みたいには、なれない。
 悔しい。けれど、安心する。
 部長みたいになりたいのに、部長が隣にいれば大丈夫だと思ってしまう。
 そうやって、人に寄りかかって生きている人の行きつく先は、『死』だと分かっているのに。

 部長の温かい大きな手が、私の背中を撫でる。
 私を落ち着かせてくれるその手の温もりが、私をいっそう惨めにさせる。

「ごめん、なさい……」

 弱い人間でごめんなさい。
 寄りかかって、ごめんなさい。
 こんな私が、部長の時間をいただいてしまってごめんなさい。
 楽しいお出かけの最後を、こんな風にしてしまってごめんなさい。

 頭の中をたくさんの謝罪が駆け巡る。けれど、まだしゃっくりのとまらない私はそれを言えない。

「俺も、悪かった」

 部長は静かにそう言う。

「無理強いをしてしまったな。だが、泣きたいときは泣いていい。溜め込みすぎるな」

 部長はそう言うと、今度こそ私から手を離す。
 それで、必然的に私も部長のシャツから手を離した。
 すると、急にブルリと身体が震えた。くしゃみが出そうになって、慌てて引っ込めた。

 濡れた服が冷たくて、一気に思考が冷静になる。

「風呂を沸かしてくる。先に入れよ」

 部長はそう言って、先に玄関の中に入っていってしまう。
 何か気の利いたことを言いたかったけれど、何も言えずに言葉に詰まってしまった。
 だから、私は仕方なく部長に言われた通りに風呂に入る。せめて早く部長と交代しようと、急いで風呂を上がるのだった。

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