隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 しばらくして「帰るか」と部長が立ち上がる。私は落としてはいけない、汚してはいけないと慌てて鞄にぬいぐるみキーホルダーを突っ込み、部長に続けて立ち上がった。

 すると、今度は部長が私に手を差し出す。
 ごく、自然に。

 小さな外灯だけがともる、夜の公園。私たち以外は、誰もいない。

 その手を素直に取ることは、もしかしたらこの気持ちを肯定することになってしまうかもしれない。
 それでもいい。
 今は、部長の手を取りたかった。

 けれど、部長がつないだ手をきゅっと握り返して、すぐに後悔が私を襲う。

 好きだ。どうしようもなく、好きだ。
 繋がれた手から伝わる部長の体温が、どうしようもなく愛おしい。
 
 けれど、離したくはない。もちろん、部長も離してはくれない。
 だから、仕方ないとそれを言い訳にして、安心した子供のように、私は部長の手を握り返す。
 
 心が落ち着くのは、部長のおかげ。
 けれど、胸の中では安心感と後悔が天秤にかけられていた。
 グラグラとゆれ、結局その天秤は後悔の方へ傾く。

 こんなに安心していることで余計に、私は部長によりかかってばかりだと気づかされる。
 強くなりたい、一人でしっかり立てる大木でありたいと思うのに、私は未だ寄りかかる添え木のようだ。
 心まで、部長におんぶにだっこだ。

 強くならなきゃ。
 弱い私のままじゃ、だめなんだ。

 部長の少し後ろを歩きながら、繋いでいない方の手をぎゅっと握りしめた。
 繋がれたのは、ただの手綱だ。そこにある愛は、私の思っている恋とはきっと違う。

 それに、恋に甘えないと誓った。
 私は、一人で生きていく。
 部長がいなくても、平気なように。

 翔也お兄ちゃんのように、部長も想い出にできる日がきっとくる。
 その時まで、この気持ちに蓋をして、踏ん張ればいいだけだ。

 想い出は、きれいなままであってほしい。
 それは、私のエゴかもしれないけれど、このまま離れればきっと、今の温かな気持ちを想い出にできるはずだ。

 だから、どうか。
 このまま、この恋が、想い出になるように。

 私は、これ以上部長に寄りかからないようにと心に誓い、部長の部屋まで彼の後ろをそっとついて歩いた。

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