隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 ――元カレ。
 短大の時に付き合っていた人が一人だけいる。
 一人で何でもできるところが好きだった。
 依存しないところが好きだった。
 だから、彼みたいに、私も一人で出来るようになろうと思った。
 強くありたかった。彼みたいに。

 なのに。

「お前は一人でも生きていけそうだよな」

 別れる直前に言われた言葉を、今も覚えている。

「俺と付き合ってる意味あるの?」

 彼にとって『彼女』とは、か弱くて守ってあげたい対象だったらしい。
 私みたいな女では、彼の恋愛対象にはならない。

 実際、この話をされたとき、彼にはもう既に別の彼女がいた。
 私という、(カノジョ)がいるのに。

 *

「瑠依、あれ以降恋してないんじゃない?」

「うん、まあ、そうね」

 適当に濁してやりすごす。
 別に、引きずっているわけではない。
 けれど、そういうことにしておけば、追求されなくて楽なのだ。

 今思えば、彼への恋は憧れだったのかもしれない。
 憧れと恋を履き違えただけの恋だったんだ。

 けれど、彼と別れた時に「彼女がいるのに他の女作るなんてサイテー!」と私の代わりに怒ってくれた彼女たちに、それを言うのは申し訳ない。
 こんなことを考える私は、やっぱり弱くて、ずるいのかもしれない。

 黙っていると、二人が私に「ごめん」と謝る。
 謝らないで欲しい。謝らなきゃいけないのは、私の方だ。
 けれど、私は苦笑いを浮かべ「ううん」とだけ言う。

「っていうかさあ、おしゃれなランジェリーが必要なのは新婚さんの方じゃないの?」

 暗くなった空気を吹き飛ばすように、精一杯におどけて言う。

「真宙は真宙で、旦那さんと素敵なランジェリー選んでるでしょ?」

 夕空がニヤニヤしながら言って、真宙が「もうっ!」と怒りながらも頬を緩める。

「買ったな〜」

 夕空が肘で真宙をツンツンしていると、「真宙」と彼女の背後から男性が声をかける。
 真宙の旦那さんだ。

「こんばんは、いつも真宙がお世話になってます」

 約束の時間に迎えに来てくれるだなんて、素敵な旦那さんだ。

「あれ、もうそんな時間?」

「うん、でもお邪魔かな?」

 旦那さんがそう言って、私と夕空は慌てて首を横にふる。

「全然です! むしろ、新婚ホヤホヤなところをお邪魔しました!」

 夕空がそう言って、私も同意するようにこくこくと頷く。
 二人が帰っていくと、夕空も席を立つ。

「私もそろそろ帰らなきゃ。子供って、なんか分からないけど朝日とともに起きるのよねえ…」

「育児、毎日お疲れ様です」

 私がそう言うと、夕空はニコリと笑って、「子供がいるのも楽しいよ?」と言う。

 そんなこんなで、飲み会はお開きになった。

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