隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 部長のことは忘れなければいけない。
 そう思うのに、どうあがいても部長のことを考えてしまうのは、憧れを恋にしてしまった、私の二度目の失敗のせいだ。
 重たい気持ちで、仕事に打ち込む。打ち込めば忘れられる。
 なのに、気を緩めたら部長のことを考えてしまう。

 だめだなあ、と思いながら、また仕事に打ち込む。
 今の私には、それしかない。なのに。

『頑張りすぎたらダメよ、たまには肩の力を抜かないと』

 祖母にあの時言われた言葉が胸に響く。
 そろそろ祖母を安心させてあげたいという気持ちももちろんある。

 ――合コンだとしても、今日くらい楽しもう。

 そう思って、仕事終わりのオフィスで、靖佳さんを待った。

 *

 終業後、靖佳さんは熊鞍さんと共にやってきた。
 キョトンとしていると、熊鞍さんが居心地悪そうに靖佳さんに視線を投げる。

「言ってなかったっけ? 熊鞍さんも一緒なの」

「ああ、そうなんですね」

 聞いていなかったが、別に問題はない。
 すると、熊鞍さんが唐突に口を開く。

「猫宮、その……、いろいろ、ごめん」

 とても小さな声だったけれど、その謝罪はきちんと私の胸に届いた。

「いえ、もう済んだことですから」

 笑顔で言えば、熊鞍さんも安心したように笑う。
 その顔を見たのは初めてで、私はやっと営業事務の一員になれたような気がした。

「じゃあ、行きましょうか!」

 靖佳さんがパチンと手を打って、下階に降りるエレベーターのボタンを押した。

「今日は裏のビルの屋上の、ビアガーデンですから! 思いっきり飲みましょうね!」

 靖佳さんは楽しそうだった。

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