パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
私が手を振り払ったはずみで指環が勢いよく弾かれ、地面に落ちた。
ころころと転がっているそれを、男が追う。
「……えっと……」
あんな高価なものなくなったらどうしようという気持ちはあるが、逃げるなら今しかない。
「……ごめん」
短くそれだけ落とし、罪悪感を抱えながらその場を去る。
「はぁーっ……」
駅のホームまできて、ようやく息をついた。
指環を探しているのか、男は追ってこなかった。
なんであの人はこんなに私に執着しているんだろう。
だいたい、邪険に振ったら、お高くとまっているとか言って諦めてくれるのに。
二日もあんな目立つ男に待ち伏せされ、しかも会社の前で求婚されたものだから、社内では完全に注目の的になっていた。
「モテる女はつらいわねー」
そう言いながら森田さんは、ニヤニヤ笑っている。
「このあいだのキャンペーン企画の抽選データ、お願いできる?
今日中に」
「あの、私、やったことがなくて……」
彼女の言うデータとは、抽選企画で当選した、応募者の個人データの抽出と、アンケートのまとめだ。
でも私はまだその仕事をやったことがないので、やり方がわからない。
「はぁっ?
もう三年目なんだから、それくらいやったことあるでしょ?
ああ。
誰かにやってもらったから、わかんないんだぁ?」