パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
『わかった。
ただし、三十分だ。
僕がこの仕事を片付けて、会社へ迎えに行くのにそれくらいかかるからね。
いい?』

「わかりました」

欲をいえば一時間は欲しい。
しかし、これは彼が私を心配してのことなので、文句は言えなかった。

「よーしっ」

電話を切り、一度伸びをして身体をほぐす。

「集中して頑張るぞー!」

私はキーの上に指を置き、猛然と叩き始めた。

きっかり三十分後、腕時計が着信を告げる。

「はいはいはい、今会社を出ますよ!」

聞こえないとわかっていながらそれに返事をし、バタバタとパソコンを閉じて帰り支度をした。

「私が最後か」

もう九時近いとなると誰もいない。
その事実に気づき、急に背筋が冷えた。
電気を消し、部署を出る。
薄暗いホールでエレベーターを待ちながら、駒木さんにもらったペンダントを硬く握って辺りをうかがってしまう。

少ししてエレベーターが到着し、扉が開く。
乗ってなぜか、閉まるのボタンを連打していた。
ゆっくりと閉まっていく扉が焦れったい。
もうすぐ閉まると思ったとき、ガッ!と勢いよく手が差し込まれた。

「……すみません」

再び開いたドアから入ってきたのは俯いて背中を丸めた、若い男性社員だった。

「いえ……」

今度こそ扉が閉まり、エレベーターが降下していく。
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