パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
その引き出しには文具だけで、書類を入れていないのが幸いした。

「篠永さん、あの見積もりどうなってる?」

「えっ、あっ」

男性社員に声をかけられるだけで、軽くパニックになる。
わたわたと現状を確認し、彼――櫻井さんを見上げた。

「課長の承認待ち、です」

「サンキュー。
てか篠永さん、元気ない?」

少し心配そうに彼が、眉間に皺を寄せる。

「あっ、そんなふうに見えますか?
全然元気ですよ」

それに無理矢理でも笑顔を作って答えた。
様子がおかしいなんて、特に同じ部署の人には気づかれたくない。

「なら、いいけどさ。
あ、よかったら、これでも食べて元気出しなよ」

「……ありがとう、ござい……ます」

櫻井さんが差し出してきたお菓子を少しのあいだ無言で見つめたあと、受け取った。

「じゃあ、あとよろしくー」

彼がいなくなり、このお菓子をどうしようか悩む。
櫻井さんは犯人候補のひとりだ。
もしかしたら今日、私の引き出しの中にあんなものを入れたのも彼かもしれない。
それにしては凄く普通だったし、本当に私を心配しているようにも見えた。

「……櫻井さんじゃ、ない?」

それでももらったお菓子を食べる気にはなれなくて、給湯室へ行ってこっそり捨てた。

びくびくしながら一日を過ごす。
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