パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
「うそっ!?」

しかし昨晩の記憶がないので、完全に否定できないのが痛い。

「だからほら、ここにサインして」

彼の美しく長い指が、空欄をとんとんと叩く。
無言でそれを睨みつけた。
膠着した時間が流れていく。
その時間を破るかのように、唐突にチャイムが鳴った。
それに続き、ドアの開く音がする。

「おはようございます、駒木け……」

「東本くん、黙れ」

瞬間移動でもしたんじゃないかという速さで駒木さんは入ってきた男の背後に回り、口を塞いだ。
男は駒木さんが怖いのか、若干涙の浮いた目でこくこくと頷いた。
というか、駒木さんの手は彼の鼻まで覆っているので、早く離してあげないと彼が窒息しないか心配だ。

「わかったなら、いい」

ようやく駒木さんが手を離し、男は必死に息をしている。
やはり、苦しかったようだ。

――それにしても、今の駒木さんは酷く冷たく見えたけれど、気のせいかな。

「じゃあ花夜乃さん、行こうか」

駒木さんが私を促すので、ソファーから立ち上がる。
そのときにさりげなく、婚姻届も回収しておいた。
こんな危ないもの、ここに置いておけない。

「……花夜乃?」

駒木さんを迎えに来たと思われる男が、怪訝そうに私を見る。
私もつい、彼の顔を見返していた。

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