パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
なんか、大変な上司に付き合わされている彼が、可哀想になってきた……。

「さあ。
ここにサインして」

にっこりと笑い、彼がペンを差し出してくる。
しかしそう言われて、わかりましたと簡単にサインできるものではないのだ、これは。

「ちょっと無理ですね」

「どうして?
ああ!」

なにかに思い至ったのか、彼がぽんと手を打つ。

「そうだ、婚約指環がまだだからだよね」

いや、それは違うが、駒木さんはそう思い込んでいるらしく、今度はテーブルの上に指環のケースが出てきた。

「お待ちかねの婚約指環だよ。
これで僕と結婚するよね?」

ケースを開けて彼は可愛らしく小首を傾げてきたが、どうしてそんな結論になるのか、まったくもって理解できない。

「いや、こんな指環をもらっても……ん?」

ケースごと指環を押し戻しかけて気づいた。
これってこのあいだ見たのと、違う指環じゃないかな?
あのときはそんなにじっくり見なかったし、違うかもしれないけれど。
別の指環だとしたら、やはりあのときなくなったとか?
だとしたら悪いことをした。
どころか、責任は私にあるし、べ、弁償とか言われたらどうしよう……。

「……あの。
これ、前回と違いませんか」
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