パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
電気をつけて明るくなった室内には、黒ずくめの男が立っていて、固まった。
「……だれ……」
ばくん、ばくん、と心臓が口から出そうなほど大きく鼓動する。
今すぐドアを開けて、逃げなきゃ。
どこか冷静な頭はそう判断するが、身体は恐怖で動かない。
「動くな」
手にしたナイフを見せながら、男が近づいてくる。
うっすらと涙の浮いた目で、こくこくと頷いた。
もう日中は長袖では汗ばむ季節だというのに、男はウィンドブレーカーのようなものを着てフードを深く被り、さらには黒のマスクまでしていた。
おかげで、顔どころか年齢もわからない。
「こい」
男が乱雑に私の手を引っ張り、床に転がす。
そのまま、男が馬乗りになってきた。
ドスッ!と顔のすぐ横の床に、勢いよくナイフを突き立てられる。
悲鳴は出かかったが恐怖で潰れた喉のせいで、「ひゅっ」と短く息が漏れただけだった。
ゆっくりと近づいてくる男の顔を、怯えて見ていた。
「……いい気になるなよ、この……盗人が」
耳もとで囁き、男が離れる。
彼がナイフを手に取った瞬間、――携帯が着信を告げた。
男の動きが止まり、辺りをうかがう。
固まった時間の中、着信音だけが鳴り響いた。
きっと、駒木さんからだ。
無駄だとわかっていながら、気づいてくれと願う。
しかしなかなか私が出ないからか、しばらくして止まった。
見捨てられた気がして、気持ちが絶望に染まっていく。
「ちっ」
舌打ちし、男がナイフを私の服の裾に当てる。