パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
「篠永さん、警察です!
入りますよ!」

「ちっ」

大きな音がしたあと、警察官が踏み込んでくる。
それと入れ違いのように男はベランダから逃げていった。

「こらーっ!
待てーっ!」

男性警官がそのあとを追っていく。
もうひとり、女性警官は私を助け起こしてくれた。

「大丈夫ですか?」

うん、うん、と頷きながらも、うまく息ができない。
涙で周囲が滲み、なにも見えない。

「花夜乃さん、落ち着いて」

パニックになっていたら、誰かに抱き締められた。
優しい声と、その匂いが私を落ち着かせる。

「僕がわかるかい?
僕だよ、駒木だ」

大きな手が私の顔を挟み、じっと私を見つめる。
ぼんやりとした視界の中、微笑む駒木さんの顔が見えた。
彼だと認識した途端、急に身体から力が抜ける。

「……駒木、さん」

「うん、僕はここにいる」

証明するかのように力強く、彼が私を抱き締める。

「……駒木、さん。
駒木さん、駒木さん、駒木さん、駒木さん……!」

言いたいことはたくさんあるはずなのに、出てこなくてひたすら彼の名を呼んだ。
呼び終わると同時に、彼の胸に縋って泣いた。

「遅くなって、ごめん」

ううん、と額を擦りつけて頭を振る。
彼は脱いだジャケットを、私に着せてくれた。

「すぐに安全なところへ連れていってあげたいけど、ちょっと待っててね」

安心させるかのように、彼の手が軽く私の背中を叩く。
顔を上げた気配がしたかと思ったら、彼のものとは思えない酷く冷たい声が聞こえてきた。

< 74 / 219 >

この作品をシェア

pagetop