パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
眼鏡の向こうで駒木さんの目がつらそうに歪んでいく。

「悪いのは駒木さんじゃない、ので」

駒木さんは悪くない。
それどころか私を助けてくれた。
悪いのはあの男だ。

「……あの男」

フードの陰から僅かに見えた冷たい目を思い出し、自分の身体を抱いていた。

「花夜乃、さん?」

私の様子がおかしいからか、駒木さんの声が心配そうになる。

「誰、だったんだろ……」

まるで、私に恨みを持っているような言い方だった。
私を知っている人?
でも、心当たりがない。

「今は無理に思い出さなくていいよ」

駒木さんの腕が、私を包み込む。

「今日はゆっくり休んで。
ね?」

優しく彼の手が私の背中をぽんぽんする。
それで再び恐怖に支配されかけていた心が、緩んだ。

食欲はあるか聞かれたが、なにも食べる気にはなれない。

「じゃあ、お風呂に入ってゆっくりしといで」

駒木さんはすぐに浴槽にお湯を張り、お風呂の準備をしてくれた。
さらに、このあいだの入浴剤を入れてくれる。

「なにかあったらそこのボタンを押して呼んで。
じゃあ、ごゆっくりー」

私を残し、彼が脱衣所を出ていく。
服を脱いで浴室に入り、あの男が触れた場所を皮膚がヒリヒリするまで何度も擦った。
おかげで、お湯に浸かると染みる。

「静か……」

広い浴室でひとりお風呂に浸かっていると、どうしてもさっきの出来事を思い出してしまう。
耐えきれなくなって、早々にお風呂を上がった。

「お風呂、ありがとうございました」

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