パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
目的のものが見つからないのか、彼はジャケットからスラックスから、ポケットをすべてひっくり返している。
彼の目が逸れ、足も止まっているあいだに、脇道に入って距離を稼いだ。

「……なにあれ」

どうやって会社を突き止めたんだろう。
怖い、怖すぎる。
これってもしかして、警察に相談案件?
……でも。

勢いよく歩いていた足は次第に遅くなっていき、そのうち止まった。
……こんなの職場の人に知られたら、自業自得、それどころか私が悪いってまた、変な噂を立てられる。

「……はぁーっ」

重いため息をついて、とぼとぼと遠回りで駅へと向かう。
もうこれは、転職しかないのかな……。



「今日こそ僕と結婚しよう、マイ・エンジェル」

翌日も会社を出たところで、大きな薔薇の花束に行方を塞がれた。
今日もタキシード姿で、あの男が真っ赤な薔薇の花束を私に差し出してくる。

「……しません」

私から出た声も、視線も酷く冷たかったが、そうなるだろう。

「今日はちゃんと、指環も用意してきたよ」

私の前に跪き、男が開けたケースの中には、ダイヤが眩しい指環が入っていた。

「さあ、このまま役所へ行って、婚姻届を……!」

指環を掴み、男が私の左手薬指に嵌めてくる。

「だから、しませんって!」

「あっ」
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