意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー
第1話
〇【未来のシーン抜粋】夜 大河とあいの部屋 大河の寝室
主人公の女子高生あい、ベッドに寝転んでいるイケメン・大河にじっと見つめられて動けない。
あい(……ど、うして……こんなことに……!?)
大河の手があいのほうに伸びてくる。
愛おしそうに指先があいの頬を撫でる。
動けなくなってしまうあい。
あい(……大河さん、顔ちか……何……!?)
ドキドキしながら大人しく息をひそめていると、あごクイされて――。
あい(な、なにーーー!?)
〇街中・電車(日中)
あい(……この制服着れるってだけで、勉強頑張ってよかったな……)
電車の中にいるあい。片手にトランク、トランクにはまくらとぬいぐるみがくくりつけらていて大荷物、リュックを背負って、待ちきれなくて着てしまった制服を見下ろす。
あい[モノローグ](ずっとあこがれていた、東京の高校。制服がかわいいって思って惹かれたのが最初だったけれど、調べるうちに部活や授業も全部好きになってて)
(なんとか補欠合格で滑り込めたの、ほんとうにラッキー!)
あい(しかも……あの学校に通うなら、お母さんがお兄ちゃんとルームシェアしなさい、って…♡ ていうかそれ以外許さないって言われたんだけど、まあいいの)
あいの表情がゆるゆるになる。
あい[モノローグ](どちらかというと、東京で一人大学院に通うお兄ちゃんとの同居が、ちょっとレベルが自分より高い学校を受験をするのに向けてのモチベに繋がっていたのだ)
あい(お兄ちゃんはママと違って優しいし、夜更かしも絶対怒らないし! かっこいいし、優しいし……自慢のおにいちゃんすぎる……)
あい、もらった鍵を手の中で見つめながらニマニマ微笑む。
あい(きっとお兄ちゃんも、一人じゃない方が楽しいよね……。いくら大学に友達がいるっていっても、家で待ってる誰かがいる方がいい、よね!)
あいの頭のなかで、「あいに会えなくて寂しかった!」と同居を大喜びしてくれる兄の姿が浮かんで微笑むあい。そのまま妄想に突入。
学校では友達をたくさんつくって、放課後は友達とおしゃれなカフェで時間をすごして…お兄ちゃんを紹介してあげてもいいかもしれない。
妄想をしながらもスマホと電車の中のモニターをずっと見比べている。
あい(……迷子になりやすいんだから、ちゃんと見てないとまた変な所に行っちゃうかも……)
(あの時はお兄ちゃんが助けに来てくれたけど、東京じゃあそうもいかないかもしれないし)
人一倍迷いやすい自覚があるあい。兄に迷惑をかけないよう、心配しなくても平気だと宣言するために、自分ひとりで家まで迷わず向かおうとしていた。
電車から降りて、スマホを一度確認してから正しい改札へ。地図も出して、トランクを引きながら目的地を目指す。
〇マンション
あい「……ここ?」
オートロックのマンションが、示された住所になっていた。渡された鍵でエントランスを抜けて、兄が住むはずの「303号室」の前まで向かう。緊張しながらドア横のインターフォンを押すが、誰も出てこない。
あい「……でかけちゃってる?」
あいは手渡された合鍵でドアを開ける。こぎれいにしてある部屋が広がっている。
あい「……まずは手を洗わないと……」
洗面台/脱衣所の扉をあけるあい。男物の服の着替えが置いてあって、だれかがお風呂に入っている。
あい(お兄ちゃんおふろか……ふふ、私が来るって聞いて楽しみになっちゃったのかな?
わざわざお昼にお風呂なんか入って気合い入れなくていいのに、妹相手に! ……でもそれぐらいかっこいい顔見せたいってことだよね……嬉しいな)
あい「お兄ちゃん~? きたよ~!」
風呂場からはシャワーの音しか聞こえない。こちらの声も聞こえていない様子。
リビングに戻って風呂上がりを待とうとしたところで――ガチャンと風呂場のドアが開く。
現れたのは、大好きな兄・ロウの姿ではなく、見知らぬイケメンだった。
腰に巻いたタオル以外は何も身に着けていない、びしょ濡れの半裸状態の謎のイケメン。
あい「えっ……」
あい(だ、誰!? ほんとに誰!? この人お兄ちゃんの何!?)
色素の薄い短髪の先から水をぽたぽた垂らして、濡れた腹筋を見せつけてくる見知らぬ男。せめて腰にタオルを巻いててくれてる事に安堵するあい。
イケメンは目の保養になるはずと信じていたけれど、突然目の前に濡れた半裸で出てくると怖いと感じる。
あい(ど、ど、どうしよう、そうだ携帯、……近くにない、えと、まず……助けよばなきゃ…!?)
あい「へ……変質者だ―――ッ!」「お、おまわりさーーーん!」
大河(半裸のイケメン)「……おまわりならここにいるぞ」
大河、低い声で眉間にしわを寄せて不機嫌そうに言う。
こんな怖い顔を男の人に向けられたのははじめてでびっくりするあい。イケメンなのにもったいないくらい表情が怖いと思う。
大河「つーか、お前こそ人んちの風呂に上がり込んだ不審者だろうが、ガキ」
あい「エ!? ハ!? ていうか……今ガキって言った!?」
急に大河の大きな手があいの顎を包むように掴む。
びっくりして、コメディタッチのうさぎみたいになりながら震えているあい。
それを見て濡れた髪の奥で悪い笑顔でにやっとする大河。その目から逃れられなくなってしまうあい。
あい「!」
あい(かっこいいけど、すっごい怖いし、むかつくし、……何なの、この人――!?)
ハッとなって慌てて脱衣所から大河の手を逃れて脱出するあい。
トイレに飛び込んで内側から鍵をかけて、震える手で兄のロウに電話する。
あい「お、お、おにいちゃん! おにいちゃんの部屋に、知らない……知らない男の人がいて、勝手にお風呂入ってた!」
ロウ(電話越し)『あ~、目つき悪いでかいヤツでしょ?』
あい「そ、そう! そうなの! あの人……」
あいが閉じこもっているトイレのドアが外からガンガン叩かれてビクッとするあい。
大河「おい、ガキ! 勝手にトイレに閉じこもってんじゃあねえぞ!」
あい「!」
ロウ(電話越し)『あはは! めっちゃ聞こえた……そいつね、大河っていうんだ。通話スピーカーにできる?』
あい「たいが……? う、うん……」
あい、言われるがままにスピーカーモードにする。
スマホから聞こえてきたロウの声で、大河がガンガントイレのドアを叩いていたのが止まる。
大河「おい、ロウ! お前……まさか……」
ロウ『そう! この子がオレの妹のあい! あい、ほら……挨拶してみて』
あい「え……や、やだーーーッ! こわいもん! お兄ちゃん助けて!」
大河「ア!? んだとこのガキ…!!」
ふたりがギャーギャー騒いで収拾がつかなくなる。フェードアウトで次のシーンに。
〇マンション・リビング
キレ気味でずっと腕を組んでいる大河、大河をにらむあいがリビングのテーブルで向かい合っている。
困ったように笑うロウはあいの隣にいる。ロウが来てようやくトイレ籠城をやめたあいは、ロウの手を握ったまま大河を警戒している。
ロウ「えーとね、大河、この子が……妹のあいちゃん」
あい「…………こんにち、は」
(服着たって、全然信じられないんだからね……)
あいのむっつりとしたあいさつを半分無視する大河。
ロウ「……こいつ、大河。オレの大学時代の友達で、今は――」
大河「警察官」
大河が、何かを口留めするようにロウに目をやる。ロウは一瞬眉毛を持ち上げてから、
何事もなかったようにつづける。
ロウ「そう、今は警察官。……顔は怖いけど悪いヤツじゃないよ、オレ、ずっとこいつとルームシェアしてたんだ」
あい「……そんな事、お兄ちゃん言ってなかった」
ロウ「アレ? 母さんには伝えてたはずだけど……」
あい、お兄ちゃんとの二人暮らしだと思っていたけれど、もしかしたらこの怖い見知らぬ警察官と一緒に住まなくちゃいけないのかと落ち込む。
そこに、何故か大河は目つきをさらに悪くして見つめてくる。
ロウ「えーっと、それでね、……オレ、今ここに住んでないんだよね」
あい「え!?」
ロウ「今は、もっと大学近くの部屋で……彩さんっていう彼女と住んでて♡」
あい「は!?」
ロウ「だから……この家のオレが住んでた部屋を、代わりにあいちゃんに使ってもらったらちょうどいいかなって」
あい「な……何それええ……!!」
ロウに言われたことが全部受け止められなくて混乱し続けるあいを、何故かバカにするように鼻で笑う大河。
大河「なんにも聞かされてねえんだな、妹のクセに」
あい(……は? 何その言い方……)
何故かライバル視しているかのような言い方を、ずっと年上のくせにしてくる大河にあからさまに表情をゆがめるあい。
大河「……お前が本当にロウの妹っていうのは信じてやるよ。だがそれは昔のことだ。今のロウの事は、オレの方が詳しい」
あい(……この人、めちゃくちゃお兄ちゃんマウンティングとってくる……!)
ある意味でライバルなのか、そう思って怖い顔をするあい。
大河とあいの間で火花が散る。どちらが『ロウにより近いか』という点で。
大河「オレは大学の時はロウと同じバイトだったから、学校でも家でもずっとそばにいたんだよ」
あい「わ、私だってお兄ちゃんが大学生になるまではずーっと一緒だったんだけど! 全部知ってるし!」
にらみ合う二人。それを見て苦笑しながら言うロウ。
ロウ「でも今のオレについては……たぶん彩さんの方が知ってるよ。彼女だし、同棲してるんだし」
天然が入ったロウの一言でふたりしてショックを受け、視線がしょんぼりと落ちるあいと大河。
あい(……それは、そうだけど……)
知らない間に、お兄ちゃんに彼女なんかできていた。
私だけのお兄ちゃんだったはずなのに、お兄ちゃんのなかで妹の自分が「一番」じゃなくなっていたことを知り、ショックをうけるあい。
だが、あいの目線の先で大河もふてくされたような顔をしていた。
あい(……この人……同担、ってこと……? しかも、よりにもよって同担拒否の……!)
そこまで考えてハッとなるあい。
あい(……わたし、このままじゃ……このめちゃくちゃ性格悪いお兄ちゃんの同担(同担拒否)と住まなきゃいけないの……!? やだ! 絶対! この人と住みたくない!)
あい「……ちょっとタイム! 助っ人呼ぶから!」
そう宣言したあいは、母親に電話をかける。
スマホをスピーカーモードにして兄が彼女と同棲するなどここまでの話をわーっと説明する。
あい「だからママ! 一人暮らしさせて! お願い!」
ママ『そんなお金はないわよ! 無理無理! いいじゃない大河君ロウにも良くしてくれたし、お巡りさんなんですって! しっかりしてるから安心して任せられるわよ』
がーん、とショックを受けている様子のあい。
それにちらっと目を向けてから、スマホに向かって優しい言い方で言う大河。
大河「……任せてください、ロウのお母さん」
ママ『あら! 大河君♡ いたのね! ……ロウに続いてご迷惑かけちゃうけど、うちの子をよろしくね!』
大河との同居回避しようとした電話でむしろ同居以外の道をつぶされてしまったあい。
わざわざ『ロウの』を強調した言い方をする大河をキッと睨む。
あい(お兄ちゃんとお母さんの点数稼ぎたいからそんなこと言うんだ…!!!)
大河「……よろしくな、ロウの妹サン」
悪い顔でにや、と笑う大河。あいにはそれが悪魔にしか見えない。
あい(私の夢が…かわいい制服でお兄ちゃんとも一緒の最高の高校生活が…!!!!)
ガラガラと夢の風景があいの脳内で崩れていく。
あい(最悪…だよー!!!)
主人公の女子高生あい、ベッドに寝転んでいるイケメン・大河にじっと見つめられて動けない。
あい(……ど、うして……こんなことに……!?)
大河の手があいのほうに伸びてくる。
愛おしそうに指先があいの頬を撫でる。
動けなくなってしまうあい。
あい(……大河さん、顔ちか……何……!?)
ドキドキしながら大人しく息をひそめていると、あごクイされて――。
あい(な、なにーーー!?)
〇街中・電車(日中)
あい(……この制服着れるってだけで、勉強頑張ってよかったな……)
電車の中にいるあい。片手にトランク、トランクにはまくらとぬいぐるみがくくりつけらていて大荷物、リュックを背負って、待ちきれなくて着てしまった制服を見下ろす。
あい[モノローグ](ずっとあこがれていた、東京の高校。制服がかわいいって思って惹かれたのが最初だったけれど、調べるうちに部活や授業も全部好きになってて)
(なんとか補欠合格で滑り込めたの、ほんとうにラッキー!)
あい(しかも……あの学校に通うなら、お母さんがお兄ちゃんとルームシェアしなさい、って…♡ ていうかそれ以外許さないって言われたんだけど、まあいいの)
あいの表情がゆるゆるになる。
あい[モノローグ](どちらかというと、東京で一人大学院に通うお兄ちゃんとの同居が、ちょっとレベルが自分より高い学校を受験をするのに向けてのモチベに繋がっていたのだ)
あい(お兄ちゃんはママと違って優しいし、夜更かしも絶対怒らないし! かっこいいし、優しいし……自慢のおにいちゃんすぎる……)
あい、もらった鍵を手の中で見つめながらニマニマ微笑む。
あい(きっとお兄ちゃんも、一人じゃない方が楽しいよね……。いくら大学に友達がいるっていっても、家で待ってる誰かがいる方がいい、よね!)
あいの頭のなかで、「あいに会えなくて寂しかった!」と同居を大喜びしてくれる兄の姿が浮かんで微笑むあい。そのまま妄想に突入。
学校では友達をたくさんつくって、放課後は友達とおしゃれなカフェで時間をすごして…お兄ちゃんを紹介してあげてもいいかもしれない。
妄想をしながらもスマホと電車の中のモニターをずっと見比べている。
あい(……迷子になりやすいんだから、ちゃんと見てないとまた変な所に行っちゃうかも……)
(あの時はお兄ちゃんが助けに来てくれたけど、東京じゃあそうもいかないかもしれないし)
人一倍迷いやすい自覚があるあい。兄に迷惑をかけないよう、心配しなくても平気だと宣言するために、自分ひとりで家まで迷わず向かおうとしていた。
電車から降りて、スマホを一度確認してから正しい改札へ。地図も出して、トランクを引きながら目的地を目指す。
〇マンション
あい「……ここ?」
オートロックのマンションが、示された住所になっていた。渡された鍵でエントランスを抜けて、兄が住むはずの「303号室」の前まで向かう。緊張しながらドア横のインターフォンを押すが、誰も出てこない。
あい「……でかけちゃってる?」
あいは手渡された合鍵でドアを開ける。こぎれいにしてある部屋が広がっている。
あい「……まずは手を洗わないと……」
洗面台/脱衣所の扉をあけるあい。男物の服の着替えが置いてあって、だれかがお風呂に入っている。
あい(お兄ちゃんおふろか……ふふ、私が来るって聞いて楽しみになっちゃったのかな?
わざわざお昼にお風呂なんか入って気合い入れなくていいのに、妹相手に! ……でもそれぐらいかっこいい顔見せたいってことだよね……嬉しいな)
あい「お兄ちゃん~? きたよ~!」
風呂場からはシャワーの音しか聞こえない。こちらの声も聞こえていない様子。
リビングに戻って風呂上がりを待とうとしたところで――ガチャンと風呂場のドアが開く。
現れたのは、大好きな兄・ロウの姿ではなく、見知らぬイケメンだった。
腰に巻いたタオル以外は何も身に着けていない、びしょ濡れの半裸状態の謎のイケメン。
あい「えっ……」
あい(だ、誰!? ほんとに誰!? この人お兄ちゃんの何!?)
色素の薄い短髪の先から水をぽたぽた垂らして、濡れた腹筋を見せつけてくる見知らぬ男。せめて腰にタオルを巻いててくれてる事に安堵するあい。
イケメンは目の保養になるはずと信じていたけれど、突然目の前に濡れた半裸で出てくると怖いと感じる。
あい(ど、ど、どうしよう、そうだ携帯、……近くにない、えと、まず……助けよばなきゃ…!?)
あい「へ……変質者だ―――ッ!」「お、おまわりさーーーん!」
大河(半裸のイケメン)「……おまわりならここにいるぞ」
大河、低い声で眉間にしわを寄せて不機嫌そうに言う。
こんな怖い顔を男の人に向けられたのははじめてでびっくりするあい。イケメンなのにもったいないくらい表情が怖いと思う。
大河「つーか、お前こそ人んちの風呂に上がり込んだ不審者だろうが、ガキ」
あい「エ!? ハ!? ていうか……今ガキって言った!?」
急に大河の大きな手があいの顎を包むように掴む。
びっくりして、コメディタッチのうさぎみたいになりながら震えているあい。
それを見て濡れた髪の奥で悪い笑顔でにやっとする大河。その目から逃れられなくなってしまうあい。
あい「!」
あい(かっこいいけど、すっごい怖いし、むかつくし、……何なの、この人――!?)
ハッとなって慌てて脱衣所から大河の手を逃れて脱出するあい。
トイレに飛び込んで内側から鍵をかけて、震える手で兄のロウに電話する。
あい「お、お、おにいちゃん! おにいちゃんの部屋に、知らない……知らない男の人がいて、勝手にお風呂入ってた!」
ロウ(電話越し)『あ~、目つき悪いでかいヤツでしょ?』
あい「そ、そう! そうなの! あの人……」
あいが閉じこもっているトイレのドアが外からガンガン叩かれてビクッとするあい。
大河「おい、ガキ! 勝手にトイレに閉じこもってんじゃあねえぞ!」
あい「!」
ロウ(電話越し)『あはは! めっちゃ聞こえた……そいつね、大河っていうんだ。通話スピーカーにできる?』
あい「たいが……? う、うん……」
あい、言われるがままにスピーカーモードにする。
スマホから聞こえてきたロウの声で、大河がガンガントイレのドアを叩いていたのが止まる。
大河「おい、ロウ! お前……まさか……」
ロウ『そう! この子がオレの妹のあい! あい、ほら……挨拶してみて』
あい「え……や、やだーーーッ! こわいもん! お兄ちゃん助けて!」
大河「ア!? んだとこのガキ…!!」
ふたりがギャーギャー騒いで収拾がつかなくなる。フェードアウトで次のシーンに。
〇マンション・リビング
キレ気味でずっと腕を組んでいる大河、大河をにらむあいがリビングのテーブルで向かい合っている。
困ったように笑うロウはあいの隣にいる。ロウが来てようやくトイレ籠城をやめたあいは、ロウの手を握ったまま大河を警戒している。
ロウ「えーとね、大河、この子が……妹のあいちゃん」
あい「…………こんにち、は」
(服着たって、全然信じられないんだからね……)
あいのむっつりとしたあいさつを半分無視する大河。
ロウ「……こいつ、大河。オレの大学時代の友達で、今は――」
大河「警察官」
大河が、何かを口留めするようにロウに目をやる。ロウは一瞬眉毛を持ち上げてから、
何事もなかったようにつづける。
ロウ「そう、今は警察官。……顔は怖いけど悪いヤツじゃないよ、オレ、ずっとこいつとルームシェアしてたんだ」
あい「……そんな事、お兄ちゃん言ってなかった」
ロウ「アレ? 母さんには伝えてたはずだけど……」
あい、お兄ちゃんとの二人暮らしだと思っていたけれど、もしかしたらこの怖い見知らぬ警察官と一緒に住まなくちゃいけないのかと落ち込む。
そこに、何故か大河は目つきをさらに悪くして見つめてくる。
ロウ「えーっと、それでね、……オレ、今ここに住んでないんだよね」
あい「え!?」
ロウ「今は、もっと大学近くの部屋で……彩さんっていう彼女と住んでて♡」
あい「は!?」
ロウ「だから……この家のオレが住んでた部屋を、代わりにあいちゃんに使ってもらったらちょうどいいかなって」
あい「な……何それええ……!!」
ロウに言われたことが全部受け止められなくて混乱し続けるあいを、何故かバカにするように鼻で笑う大河。
大河「なんにも聞かされてねえんだな、妹のクセに」
あい(……は? 何その言い方……)
何故かライバル視しているかのような言い方を、ずっと年上のくせにしてくる大河にあからさまに表情をゆがめるあい。
大河「……お前が本当にロウの妹っていうのは信じてやるよ。だがそれは昔のことだ。今のロウの事は、オレの方が詳しい」
あい(……この人、めちゃくちゃお兄ちゃんマウンティングとってくる……!)
ある意味でライバルなのか、そう思って怖い顔をするあい。
大河とあいの間で火花が散る。どちらが『ロウにより近いか』という点で。
大河「オレは大学の時はロウと同じバイトだったから、学校でも家でもずっとそばにいたんだよ」
あい「わ、私だってお兄ちゃんが大学生になるまではずーっと一緒だったんだけど! 全部知ってるし!」
にらみ合う二人。それを見て苦笑しながら言うロウ。
ロウ「でも今のオレについては……たぶん彩さんの方が知ってるよ。彼女だし、同棲してるんだし」
天然が入ったロウの一言でふたりしてショックを受け、視線がしょんぼりと落ちるあいと大河。
あい(……それは、そうだけど……)
知らない間に、お兄ちゃんに彼女なんかできていた。
私だけのお兄ちゃんだったはずなのに、お兄ちゃんのなかで妹の自分が「一番」じゃなくなっていたことを知り、ショックをうけるあい。
だが、あいの目線の先で大河もふてくされたような顔をしていた。
あい(……この人……同担、ってこと……? しかも、よりにもよって同担拒否の……!)
そこまで考えてハッとなるあい。
あい(……わたし、このままじゃ……このめちゃくちゃ性格悪いお兄ちゃんの同担(同担拒否)と住まなきゃいけないの……!? やだ! 絶対! この人と住みたくない!)
あい「……ちょっとタイム! 助っ人呼ぶから!」
そう宣言したあいは、母親に電話をかける。
スマホをスピーカーモードにして兄が彼女と同棲するなどここまでの話をわーっと説明する。
あい「だからママ! 一人暮らしさせて! お願い!」
ママ『そんなお金はないわよ! 無理無理! いいじゃない大河君ロウにも良くしてくれたし、お巡りさんなんですって! しっかりしてるから安心して任せられるわよ』
がーん、とショックを受けている様子のあい。
それにちらっと目を向けてから、スマホに向かって優しい言い方で言う大河。
大河「……任せてください、ロウのお母さん」
ママ『あら! 大河君♡ いたのね! ……ロウに続いてご迷惑かけちゃうけど、うちの子をよろしくね!』
大河との同居回避しようとした電話でむしろ同居以外の道をつぶされてしまったあい。
わざわざ『ロウの』を強調した言い方をする大河をキッと睨む。
あい(お兄ちゃんとお母さんの点数稼ぎたいからそんなこと言うんだ…!!!)
大河「……よろしくな、ロウの妹サン」
悪い顔でにや、と笑う大河。あいにはそれが悪魔にしか見えない。
あい(私の夢が…かわいい制服でお兄ちゃんとも一緒の最高の高校生活が…!!!!)
ガラガラと夢の風景があいの脳内で崩れていく。
あい(最悪…だよー!!!)
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