意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー

第11話

○時間不明 暗い倉庫

あい「……う…」

後ろ手にされ、椅子に縛られているあい。
あいを照らすように大きなライトがついている。

震えながらキョロキョロしてみるけれど、ライトのせいで周りは余計に暗くて何も見えない。

あい(ここ……どこ……? わ、私……!!)

息が荒くなっていくけれど、止められない。
恐怖で顔は引きつったまま。


??「やっと起きた?」
あい「あなた……!」

声の主が、暗闇からライトの明かりのなかに出てくる。

あい「昴……さん?」

あいの目の前にいた男は、あいが見覚えのあった優しげな顔をした昴ではなかった。
髪をがちっとしたオールバックでまとめて、黒手袋黒スーツの姿はまるでマフィアのようだった。


昴「おはよう。よく眠れた? 別に痛くしてないからそりゃ寝れるよねえ」
あい「なに……やだ……!」
昴「……返事くらいしろよ」

だん、と大きな足音を立てて近づいてくる昴に、身体をちぢこませるあい。

昴「……殺したりはしないよ。……お前は餌だから」
あい「餌……?」
昴「そう、餌。……本当はお前の兄貴でもよかったんだけどね。やっぱ成人男性ひっかけんのはちょっとダルいわ……だからバカなガキを、ってね」

あい(……バカな、ガキ……。……大河さんの、言った通りだ。私、すっごい……大馬鹿だ……行くな、って大河さん、言ったのに……)

パニックが上回って涙が出ていなかったけれど、その言葉で涙が止まらなくなるあい。
その涙を見て、苦笑する昴。

昴「泣かれても、どうにもなんないけどね……」
あい「…………餌、って……、私でおびき寄せられるのなんて、いないでしょ」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながらつぶやくあい。その言葉に顔が歪む昴。
あいの顎をつかんでグイと上に持ち上げる。

昴「自覚なく奪うのが、一番の悪だろ……」
昴「……お前が、お前ら兄弟が……オレらから大河を奪ったんだろうが……!」

○回想/イメージ情景 大河と昴/高校時代

高校生の昴と大河。二人とも制服を着崩していて、柄が悪い雰囲気。
周りには同じ制服を着た似たような柄の悪い少年たちがいる。

昴[ナレーション]「あいつは……カリスマだった」
「大河がいたら、どんな大きいことだってできると思えた」

別の制服を着込んだ少年たちとの乱闘が起きる。
昴と大河がいる学校が勝つ。

昴と大河、同じ方向を見ていたはずだが、いつの間にか大河の目にはロウが写っていた。
ロウが伸ばした手をつかむ大河。昴だけが取り残される。

(回想終了)

昴「……大河は、カリスマだったんだ……あいつがいたらどんな事だってできるって思えたのに、それをお前の兄が洗脳したんだろ!」

腕を振り上げる昴、思わずぎゅっと目を閉じるあい。

あい(……助けて、…大河さん、助けて……!)



○夜 大河とあいの家

帰宅した大河。いつもと違って真っ暗な部屋に迎えられ、少し驚く。

大河「……あい?」
大河(寝てんのか?)

大河はあいの部屋をそっと覗くも、誰もいない。
念のためトイレも風呂場も確認するも、人の気配は一切ない。

大河(……あい…!?)

大河の心臓がバクバクと嫌に高鳴り始める。
震えそうになる手で、スマホで電話をかける。

大河「……身内が行方不明になったようです、至急……対策をお願いいたします、ハイ……すぐ向かいます」

通話を終えた途端に、勢い良く玄関に走る大河。
乱暴にドアをしめてエレベーターへと走る。

大河、慌てて走りながら別のところにも電話をかけ始める。

大河「織田!」
織田[電話越し]『……おや、坊ちゃま。お久しぶりのご連絡、とても嬉しい限りです。何年ぶりでしょうか』

電話相手のカット、アンティークの古い電話を持っている白い手袋の人物とその口元だけ映る。

大河「白白しいんだよ……どうせ全部見てんだろうが」

苦々しげに言う大河。無言のままの織田。

大河「……一緒に住んでる……ロウの妹が、さらわれたかもしれねえ」
織田『!』
大河「警察にももちろん連絡したが、……うちで動いた方が早いだろ」
織田『おそらくは』
大河「今すぐ動け……当主命令だ!」





○時間不明 暗い倉庫

あい(……助けて、…大河さん、助けて……!)

昴は振り上げた腕を、あいが縛り付けられた椅子に振り下ろす。
痛みはないけれど、ガタガタと衝撃が伝わるだけで十分な恐怖を味わう。
震えながら気がつくあい。

あい(…………私、いま……ロウくんじゃなくて、大河さんに、助けてって思ってた……?)

頭の中に浮かんだ姿は、大河の姿だった。

あい(他人、とか……私、意地悪言った……でも、私大河さんが好きなんだ…)
(ここで殺されちゃって、最後に言ったのがあんな言葉だったら…やだ…)

あい「たいがさん……たいがさんに会いたいよ……」
昴「お。餌っぽいこと言うじゃん」

があん、と遠くから大きな音がする。続いてべきべきとなにかを無理やり引き剥がす音。
それから複数人の足音が続く。

「いたぞー!」「あそこだ!」

口々に誰かが叫ぶ。ひときわ全速力の人影が、あっという間に昴とあいのいたところまでたどりつく。
警察官の制服を着ている大河だった。それを追いかけてくるように『ABE Security』というロゴのついたヘルメットとタクティカルベストを着た男たちが続いた。

昴とあいを囲む男たち。
昴を睨む大河。

大河「昴てめえ! 何していやがる!!」
昴「大河! がっかりだよ……マジでただのおまわりってワケ…? オレたちの大河はそんなんじゃないだろ、なあ……!」

大河に食いつくように昴がすがるように寄ってくる。
タクティカルベストを着た男のうちの一人が指で指示すると、男たちは一斉に昴に飛びかかる。

昴「ッ……離せよクソが……!!!」

あっという間に昴は捕まって、後ろ手に腕を縛られてから立ち上がらせられる。
ギリギリと歯を食いしばりながら大河をぎらついた目で見つめる昴に、静かに呟く大河。

大河「……変わったんだよ、……変われた、んだよ。……あいつらのおかげでな」
昴「……あの子、殺しちゃえばよかった」
大河「…………そしたらお前は今生きてねえよ」

バカにするように笑う昴。

昴「もう、誰も殴れないくせによく言うよ……」

男たちに引きずられていく昴。遠くからパトカーの音が聞こえ始める。

あい「た……たいが、さん……」
大河「あい!」

慌てた様子で椅子に飛びつく大河。あいの手首を縛っていたロープを、ナイフで切って外す。
ふらりと倒れ込んできたあいの身体を受け止めて、ぎゅっと抱きしめてくれる大河。

大河「……怖かったな、もう大丈夫だ」

何度も大きな手があいの背中を撫でる。
その温度に、抱きしめられているという状況に、安堵で今度は涙が出そうになるあい。

あい(私……大河さんにひどいこと言ったのに、すごいバカなのに……大河さんは、優しい)

なんとか腕を大河に回す。抱きしめ返しながら思うあい。

あい(……わたし……大河さんのことが……好きなんだ……)

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