意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー
第2話
〇大河とあいの家 朝
仕事に行く準備をバッチリしながら怒っている大河、寝起きでパジャマのあいにキレている。
大河「……ガキ、いつまで寝てんだよ! 今日のゴミ当番お前だったろうが! なんでオレが行く羽目になってんだよ」
あい「ご……ゴミくらいでそんな怖い顔で叫ばないでよ!」
大河「ゴミ、くらいだあ……? 一緒に住むんなら【ルールくらい】守れ!」
そう言われてぐうの音もでなくなってしまうあい。
あい(お…お兄ちゃんだったら絶対怒んないのに! ていうかお兄ちゃんのためならゴミ出しも料理も全部やったっていいんだからこんな喧嘩になんかならないのに!)
なにか反論しようとしても、本当は全部自分が悪いのはわかっていて何も言えない。ムカついてしょうがないけれど、あいの心の中にいるロウ(天使の羽が生えている)が「こういうときどうするんだっけ?」と脳内であいに囁いてくる。
脳内ロウに導かれて、喉の奥から絞りだすように「ごめんなさい」と聞き取りにくい声で囁く。
大河「なんでもいいからメシ食って片付けておけよ!」
謝ったのを聞いてたのかもわからない勢いで出ていく大河。
あいが視線を向けたテーブルの先では、クロワッサンとサラダ、目玉焼き、ヨーグルトが。
あい(……むー…)
もそもそと朝ごはんを食べるあい。おいしいのがまたムカつく。
あい(……別に大河さんと住みたいなんて、思ってなかったもん……本当は、本当はお兄ちゃんと住むはずだったんだもん……)
ちょっと泣きそうになりながら、朝ごはんを食べ切るあい。
-時間経過コマなど-
〇学校 放課後
あい、点数があんまり良くないミニテストと、ノートと教科書の三つをかわりばんこにじっと睨んでいる。しばらくしてからつらそうな顔ではーっと息を吐く。
問題が難しくて降参。ごそごそと帰りの支度をする。
あい(……私の夢の高校生活)
あいの脳内に、1話の冒頭のようなかわいい制服、兄と一緒の同居生活、東京での暮らし(インスタに色々投稿するイメージ)…のきらきら高校生活が浮かぶ。
しかしそれにひびが入ってくずれる。
あい(……せっかく勉強頑張ったのに、お兄ちゃんとの同居の夢は破れた上、すぐキレる同担(同担拒否気味)とすまなくちゃ行けなくて、無理して頑張っちゃった学校は授業についてくのも精いっぱい……)
あい(こんなの……全然想像と違ってて……普通にへこむよ……)
机につっぷすあい。それを見て、隣の席の友人・夏帆が声をかけてくれる。
夏帆「どしたの~? やなことあった?」
あい「……ううん、何でもないの……でもありがと~~……」
あい(夏帆ちゃん、いい子だけどいい子だから今日はなんだか言いたくない…!)
(勉強わかんないのバカだな~って思われるのやだし、自分の寝坊のせいでしかられた~とか……ダサすぎるし……)
行かなきゃいけないところがあるから、そう言い訳して、あいは雛子に手を振ってのろのろと立ち上がって教室を出る。
あい(……おうち帰りたくない……。金曜だし、お兄ちゃんに会いにいってもいいかもしれないけど……学校の研究?大変だーって言ってたしなあ……せめてご褒美のお出かけ先でも、探そうかな……)
今日は学校から少し遠回りして帰ることを決める。考え込みながら歩いているあい。スマホで近くのカフェを調べて、そこに向かうことにする。
だが歩いても歩いても、目的地のお店が全然見つからない。
あい(……うあ~! また迷子……!?)
これで何回目!? スマホみたのに!
そう思いながら地図をぐるぐる回しながらなんとか道を進むけれど、目的地のカフェは全然見えてこない。
ハッと気づくと、交番が見える。最悪そこで話を聞こうかと思って更に見つめると、
おまわりさんがにこやかにおばあさんの相手をしている。
腰が曲がったおばあさんの前にしゃがんで、ゆっくりうなずきながら話を聞いてあげて、にっこり笑ってから道を指さして「こっちの道で、2番目の交差点を右に……」と丁寧に説明してあげている。
おばあさんも嬉しそうだ。凄くいい人なんだな……とじーっと見つめていたら、
あい「……え!?!?」
思わず声が出たあい。
目の前の素敵な警察官は、今朝あいを怒鳴った大河その人だった。
あい(うっそでしょ……!? アレが大河さん!? こんなの……そんな笑顔!!!!)
見たことのないような、そして大河が一生見せなさそうな優しい笑顔をしてたのに驚いたあい、挙動不審になってしまう。
おばあさんを見送ったあとの大河、挙動不審のあいに気づく。一瞬見つめ合って固まるふたり。
ずかずか近寄ってくる大河に、びびるあい。
少し腰を曲げてあいを覗き込んでくる。その表情はおばあさんに向けていたような爽やか王子様笑顔だった。
一瞬ドキっとするあい。いつも大河が睨むような顔をしていたから、こんなにかっこいいとは思わなかった。
しかし、大河のわざとらしく爽やかなセリフを聞いてムカッとする。
大河「きみ、学生さん? 新入生? どうしたのかな?」
あい「!」
あい(だ、……誰だこいつ~~!!! これも今朝の続き!? 怒ってるぞってこと!? ていうかしらじらし~~っていうかバカにしてる!)
少しずつじりじりと後ずさって距離を取るあい。
あい「え~っと、……だ、大丈夫ですーーー!!」
大河「逃げんな」
あい(あ! 口調が戻った!!!)
カバンをガッと大河に掴まれて動けなくなるあい。しぶしぶもとのところに戻る。
見上げた先の大河はもう王子様笑顔はしていなかった。ちょっと怖い顔でびびるあい。
大河「……なんかあったのかよ、学校とかで……お前がわざわざ会いにくるとか」
大河の表情はあいをバカにしているのではなく、素直に心配しているような表情だった。
あい「会いにきたわけじゃないもん……。ほんとに……ただ、迷っちゃって。ここの……スタノッテってカフェに行きたいんだけどよくわかんなくて、たまたまここ通っただけで……」
本当のことなのに、なんだか言い訳するみたいになってしまうあい。
あいの言葉を聞いて、目を見開く大河。
大河「は? お前……マジかよ……ただの迷子?」
あい(何その言い方…!!)
あい「~~~そうですよ! 迷子ですよ」
大河「…………スマホ見せて」
迷子なのは事実なので言い返せないあいに少し笑って言う大河、半分バカにしてる気はするけど、ずいぶん言い方は柔らかくなった。
画面を指さしながら説明してくれる大河。
大河「今いる交番がココだろ、だから……もうここまで来てんだよ、次の細い道曲がる、右じゃなくて左」
あい「あ……あ~! 逆かと思ってた! ありがとう」
素直にありがとうが出てきたことに自分でもびっくりするあい。
大河も少し驚いている。表情が柔らかくなる。
大河「……ここのカフェ、持ち帰りとかできんの?」
あい「……わかんない」
大河「できそうだったら、なんか甘いやつ買っといて」
あい「!」
重ねて驚いた顔したあいに、大河は柔らかい表情を消して普段どおりの眉を寄せた怖い顔で言う。
大河「……なんだよ」
あい「え……意外~って思って……甘いもの好きなの?」
大河「……人並みに、ってぐらいだ、……悪いかよ」
あい「べつに~~……まあいいよ、買って来てあげるよ! 優しいからね!」
あいがあえて偉そうに言えば「生意気な事言いやがって、」と大河に軽口を叩かれる。でも怒ってる様子は感じられない。
少し仲良くなれたかもしれない、そう思ったあいに大河が言う。
大河「……じゃーな、妹、あとでな」
あい「その妹ってやつやめて!」
大河「ははっ」
いたずらっぽく笑う大河。いつもの怖い顔に見えない。
あい(……っ!)
朝の喧嘩も流してくれたような態度の大河に、また少し罪悪感を持つ。
きちんと向き合いたいと思いながら、教えてもらった道でカフェを目指す。
〇大河とあいの家 夜
リビングでスマホをいじっているあい。帰宅した大河、それを見て口を開く。
大河「おい、……妹」
あい「……名前呼ばれるまでへんじしませーん」
大河「…………あい」
あい「……」
大河「…… 呼べっつったから呼んだのに無視すんな」
あいが座っているソファにずかずか近づいてくる大河。
なんて言おうかあいが考えている横から片手であいの顎を軽くつかんで無理やり自分の方に向かせる大河。
ぎゅっと眉を寄せて、でも凄くかっこいい顔がめちゃくちゃ近くにあってびっくりするあい、
大きな手があごをつかんでる、家族以外の男の人にこんな近くに来られたのも触れられたのも初めてでパニック。
あい「!」
大河「お前……すげー赤くなってんぞ」
あい「~~っ…大河さんの顔がこわかったからです~! こわいと赤くなるんです~~」
大河「…んだよそれ」
眉はつり上がったまま、しかし子どものように笑う大河。
怖い怖いとばかり思っていたのに、心を開いてる様子の大河に少しずつほだされそうになるあい。
ごまかすように、大河にカフェで買ったクッキーを押し付ける。
あい「……これ、あげる。ロウくんってさ、ざくざく系のチョコクッキーがすっごい好きなの知ってた?」
半分マウントを取るつもりで、推しが好きなものとしてカフェで買ったクッキーを大河に見せる。
だが大河のさっきまでの心を開いていたような表情が、急に顔があいをバカにする顔になる。
大河「教えてくれてありがとうよ、……ま、オレはロウの好きな酒も、つまみも、酔った時にどうなるかも……知ってるけどな」
あい(な……! や~~っぱムカつく!)
ふたりでにらみ合い、火花をバチバチ散らしながら、二人でソファに並んでクッキーを食べている。
あい(……明日こそ……絶対勝ってやるんだから……見てな…!!!)