意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー
第3話
○あいの部屋 休日の朝
あい「は~~~ロウくんが足りないよぉ~せっかく上京したのにさ~……結局一緒に住んでないんだったら実家にいるのとかわんないよ〜〜」
ひとり、ベッドの上でじたばたしながら嘆くあい。
あい「……そうだ! この時期ならもう大学も落ち着いてるって言ってたし、会いにいけばいいんだ!」
ベッドからがばりと顔を上げてスマホを手に取る。ロウ宛てのLINOを打っているあい。
あい[スマホ画面] 『おはよ! 今日会えないかな? ロウくんちに遊びに行きたい』
ロウ[スマホ画面]『もちろんいいよ! 大河と一緒においでよ』
スマホに出た大河、の文字に顔を歪めるあい。
あい(えーーっ絶対やだ……! ひとりで行く、って言おうかな……大河さんには友達に会うとか言っておいて)
そこまで考えたタイミングであいの部屋のドアが勢いよく開く。
大河「おら、準備出来たか? さっさと行くぞ」
あい「は!? 入るときノックしてって言ったじゃん! ていうかなにその格好!?! おしゃれすぎない!?」
あいの部屋を突然開けた大河は、普段はラフな髪もセットして、ハイネックのトップスにジャケット、細身のパンツ…で韓国の俳優みたいな気合の入ったスタイルで立っていた。
大河「……ロウからお前と遊びに来いって言われたんだよ。……あいつに会うんだから気合入れねえと……」
あい(……お兄ちゃん、先に大河さんに連絡してたんだ)
気合の入った大河のセリフに反応するよりも、大河が先に連絡もらっていたことにちょっと傷つくあい。そんなのお構いなしに推しに一秒でも早く会いに行きたい大河によって早くしろと追い立てられる。
大河「ノロノロすんな! 布団はぐぞ」
あい「そんなしなくたって準備するってば!」
あい(見た目はかっこいいのに、大河さんほんとロウくんオタクすぎる!)
〇電車の中
休日の朝の電車は混んでいた。ドア近くの壁際に立っている二人。あいが壁に背をつけて、その前に大河が立っている。
電車の中で会話はない。お互いにスマホの中のロウの写真を見るのに忙しい。
あいもまた、ロウに会うからと髪を巻いてお気に入りのスカートとブラウスで気合を入れていた。
アイドルのライブに行く女の子と同じような格好、いわゆる地雷系に近い格好をしていた。
あい(……ロウくんの彼女さん、本当にいい人、なのかな……)
あい(……私も付き合ってるって聞く前に、同棲とかって……無理矢理とかだったらどうしよう……)
小姑として決意に燃えた表情をするあい。
あい(わたしが、ちゃんと見なくちゃ……って、うわっ!)
途中駅で、人がたくさん乗り込んでくる。壁に背中をつけていたあいに、大河の身体が押し付けられる。
咄嗟に壁に腕をついて、あいのために自分の身体の下に空間を作ってやる大河。
あいをつぶさなかったことに少し安堵のため息をついてから、顔の真下にあるあいの耳元で囁く。
大河「……悪い、……ちょっとだから大人しくしてろ」
あい「うん、……だ、いじょうぶ」
いつもと違ってかっこいい恰好で、電車の中だからいつもの大声ではなく囁き声で話す大河に壁ドンされている状況。
しかも大河が、満員電車で自分をつぶれないように守ってくれているのだとわかってどきどきしてしまうあい。
あい(……大河さん、って……)
ちらりとこっそり大河の顔を見上げる。顎のラインがキレイに見えて、いつもの怒ってたりする顔じゃないから余計にドキッとする。
あい(……顔は、かっこいいのかも……)
〇ロウの家/マンション廊下
ロウとその彼女・彩さんが住むという部屋の前。バタバタと髪を整えたり身繕いをして深呼吸をする大河とあい。
握手会を前にしたファンのように落ち着きがない。
大河と目配せを交わし合ってから意を決した表情で、インターフォンを押すあい。
あい「あ……あのっ! わたし、ロウくんの妹のあいです!」
インターフォンの向こうから聞こえたのはロウの声だった。
ロウ『あ、いらっしゃい! ちょっとまってね、今ドア開けるから……』
ガチャン、とドアが開く。
〇ロウの家
あい「!」
大河「!」
二人の目の前にいたのは、インターフォン越しに声をかけてくれたロウではなく、
あいからしたら見知らぬ女の人だった。
彩「あ、こんにちは~。はじめまして、とりあえず……奥までどうぞ! いらっしゃい~」
セットはしてないけれど、ふんわりまとまった髪、優しそうな目。
くつろいだ部屋着のまま、のんびりとした様子で二人を部屋にあげてくれる彩さんに、バチバチにキメた二人はすでに謎の敗北感を感じはじめていた。
あい「お、じゃまします……あ!!! ロウくん~~!!!!」
リビングのソファに座っていたロウに飛びついてハグするあい。
ロウ「あいちゃん、よく来たね~! 大河も、いつもありがとう」
大河「……おう」
久しぶりに本物のロウを堪能するあい。それを見てロウにハグしたい訳では無いが家族だからこその距離の近さを見せつけられて思わず表情を歪める大河。
それを見てマウント取るような顔を見せつけてしまうあい。また二人の間で火花が散る。
ロウ(なんか見つめ合ってるし、大河とあいちゃん、仲良しになったみたいでよかったな~)
彩「みんな、紅茶いれたから良かったらこっちでクッキーと一緒に食べて!」
○ロウの家 ダイニング
ダイニングテーブルで、あいと大河が隣に並んで、その正面にロウと彩が隣り合っている。
何故かがちがちに緊張している二人を見たロウがつぶやく。
ロウ「なんだか、二人とも似てるね! 仲良くやれてるみたいでよかった」
その言葉に、思わず無言になって二ヘラ…とごまかすように笑うしかないあいと大河。
おいしいクッキーと紅茶をもらってから、勇気を出して声を上げたあい。
あい「あ、彩さん、は……ロウくんとどこで知り合ったんですか?」
彩「大学の図書館で、取れなかった本を取ってもらったりしたんだ~。授業とかも全然被ってなかったんだけど、ロウくんの方から色々声かけてくれて……いい後輩だよ、ロウくんて」
ロウ「もういいでしょ、彩さん……恥ずかしいから言わないで」
ロウの照れるような態度に、かわいい!と思いながらもショックを受けているあいと大河。
あい・大河(かわいい! でも!! そ……んな顔!!! はじめて見たッ!!!)
ダメージを受けながらも負けてられないと続けるあい。
大人としてあいを止めた方が良いとは思うが、あいの気持ちもわかるから口に出せない大河。
あい「ロ…ロウくんのどこが好きですか! 本当に好きなんですか!」
質問の内容や口調が尋問みたいになっているのもわかっている様子で一瞬驚いた顔をしてから、それでも嫌がらずに話してくれる彩。
彩「……優しいし、照れ屋なのに、好きな人のために頑張れるところが好き、だよ」
ロウ「……彩さん…! ていうかあいちゃんも!もう照れるからオレに関する質問しなくていいよ!」
バチバチの空気に一人気づいていないロウ。質問はおわりー!と手をバタバタさせて質問を打ち切らせる。
あいは、目の前の寝癖も残ってる、ゆるゆる部屋着の、ロウより年上の女の人に完全敗北を悟って顔が白くなっていた。
あい(……ロウくんの一番は、わたしだったのに……)
適当な返事しかできなくなっているあいを、大河が気にかけるように横から見ていた。
お茶の後、少しお話しして一緒にボードゲームをして帰ることになったふたり。
見送る時にロウがお菓子を持たせるのを忘れたと部屋に戻る。
彩とあいと大河、3人になったタイミングで彩が言う。
彩「あいちゃんも、大河くんも……ロウのことが凄く大事なんだね」
あい「!」
大河「……まあ、そうですね」
あいが何も言えなくなっているのを見て大河がこたえる。
大河「……あいつから聞いてるかもしれないけど、……オレはあいつに、荒れてたとき、すげー助けてもらったんで……」
それを聞いて少し驚いてから、しかし納得するあい。頭の中にはガーッ!とあいに怒る大河のデフォルメ顔が浮かぶ。
あい(……荒れてた? ヤンキーってこと? まあそうかも……なんかわかる)
それを聞いた彩はそれを知っていた様子でかるく頷く。
彩「私も、ロウくんがすごく大事だよ。ロウくんを悲しませるようなことは絶対しないから。……これ私のLINO ID。何かあったら直接連絡してくれても大丈夫だよ」
IDを交換したところでロウが戻ってきて、なんとか笑顔でさよならしたふたり。
笑顔の絵に、あいのモノローグが重なる。
あい(……彩さん、が)
あい(…………嫌な女の人だったら、よかったのに)
なんとか無理やり笑っているあいを、やっぱり無言で見つめていた大河。
○街中 夕方
ふたりでとぼとぼ歩いている、お互いの憔悴した顔を見て面白くなってしまって、しょんぼり顔のままちょっと笑ってしまう。
大河「……メシ、行くかよ」
あい「大河さんのおごりならいーよ」
大河「かわいくねーガキだな……」
それでもご飯に連れてってもらう。
おしゃれな街のイタリアンに入ったけど、ふたりとも黙々と食べている、大河は静かにワインを飲んで、静かに酔い始めている。
あい「……彩さん、さあ」
大河「ああ」
あい「すっごい、すっごいやな女の人だったらよかったのにな」
あいが思わずつぶやいた言葉に、フッと笑う大河。
大河「……まあ、いいてえことはわかる」
大人な余裕があるみたいなことを言う大河に、むっとするあい。
あい「大河さんも失恋してるみたいな顔してるくせに!」
大河、その言葉にあいの予想と違って怒らずにふっと笑って眉を寄せて見せる。その寂しげな表情にドキッとしてしまうあい。
大河「……ああ、そうかもな……似たようなもんだ。あいつの相棒みてえになれたらって思ってたのにな、……オレの方は高校時代からあいつの事知ってんのに、結局一緒に住んでんのは出会って三ヶ月とかの知らねえ女だぜ」
あい(……ほんとに、すっごい寂しそうに笑うんだ……)
大人がそんな顔するのを初めて見たあい。自分もロウに対して似た感情を持つからこそ、同じ様に寂しい気持ちになって胸が苦しい。
あい(ロウくんへの気持ちとか……私たち、結構似てるんだ)
あい(大河さんのこと、やばい同担拒否ロウくんオタクかと思ってたけど…でも、わかっちゃうや、大河さんの気持ち…)
ふたりで静かにご飯を食べる。
○大河の部屋 夜
大河、部屋でため息をついている。
大河(……ロウが守りたいと思ったもの、大事にしたいと思ったものだから、自分も大事にしたいんだと思ってた)
○(回想)大河とロウの高校時代
ヤンキーぽい着崩した制服の大河に、ロウがスマホの画面を見せる。ロウは制服はきっちりただしく着込んでいる。
ロウ「この前、妹と一緒に水族館行ったんだ」
大河「へー……」
ロウとあいが仲良く写っている。あいはすごい笑顔。その写真を見るロウも、優しい笑顔を浮かべている。
大河「妹とずいぶん仲がいいんだな」
ロウ「うん、オレの人生で一番大事かも……年がまあまあ離れてるから、かもしれないけど……。かわいいだろ」
大河「……まあ、かわいい、んじゃあねーの」
大河、優しい表情のロウと写真の中のあいを見つめる。心臓がドキッと鳴る。
大河(お前と、お前が大事にしてえもの、……オレが守ってやれる様になりてえな……)
(回想終了)
大河(……ロウの彼女と妹、そりゃ違うものだとはわかっているが、)
彩の姿と、あいの姿が大河の脳内にフラッシュバックする。
きらきらして見えるあいの姿、怒ったり笑ったり、すごく可愛く見えている。
大河「……そんなの関係なく、オレが守ってやりてえって思ったのは、……お前ってことかよ……」
ロウに写真を見せられたときのドキッとした感覚が、一目惚れだったことにようやく気づいてしまう大河。
赤い顔で怒った様に眉を寄せる。
大河「……くそッ…」
あい「は~~~ロウくんが足りないよぉ~せっかく上京したのにさ~……結局一緒に住んでないんだったら実家にいるのとかわんないよ〜〜」
ひとり、ベッドの上でじたばたしながら嘆くあい。
あい「……そうだ! この時期ならもう大学も落ち着いてるって言ってたし、会いにいけばいいんだ!」
ベッドからがばりと顔を上げてスマホを手に取る。ロウ宛てのLINOを打っているあい。
あい[スマホ画面] 『おはよ! 今日会えないかな? ロウくんちに遊びに行きたい』
ロウ[スマホ画面]『もちろんいいよ! 大河と一緒においでよ』
スマホに出た大河、の文字に顔を歪めるあい。
あい(えーーっ絶対やだ……! ひとりで行く、って言おうかな……大河さんには友達に会うとか言っておいて)
そこまで考えたタイミングであいの部屋のドアが勢いよく開く。
大河「おら、準備出来たか? さっさと行くぞ」
あい「は!? 入るときノックしてって言ったじゃん! ていうかなにその格好!?! おしゃれすぎない!?」
あいの部屋を突然開けた大河は、普段はラフな髪もセットして、ハイネックのトップスにジャケット、細身のパンツ…で韓国の俳優みたいな気合の入ったスタイルで立っていた。
大河「……ロウからお前と遊びに来いって言われたんだよ。……あいつに会うんだから気合入れねえと……」
あい(……お兄ちゃん、先に大河さんに連絡してたんだ)
気合の入った大河のセリフに反応するよりも、大河が先に連絡もらっていたことにちょっと傷つくあい。そんなのお構いなしに推しに一秒でも早く会いに行きたい大河によって早くしろと追い立てられる。
大河「ノロノロすんな! 布団はぐぞ」
あい「そんなしなくたって準備するってば!」
あい(見た目はかっこいいのに、大河さんほんとロウくんオタクすぎる!)
〇電車の中
休日の朝の電車は混んでいた。ドア近くの壁際に立っている二人。あいが壁に背をつけて、その前に大河が立っている。
電車の中で会話はない。お互いにスマホの中のロウの写真を見るのに忙しい。
あいもまた、ロウに会うからと髪を巻いてお気に入りのスカートとブラウスで気合を入れていた。
アイドルのライブに行く女の子と同じような格好、いわゆる地雷系に近い格好をしていた。
あい(……ロウくんの彼女さん、本当にいい人、なのかな……)
あい(……私も付き合ってるって聞く前に、同棲とかって……無理矢理とかだったらどうしよう……)
小姑として決意に燃えた表情をするあい。
あい(わたしが、ちゃんと見なくちゃ……って、うわっ!)
途中駅で、人がたくさん乗り込んでくる。壁に背中をつけていたあいに、大河の身体が押し付けられる。
咄嗟に壁に腕をついて、あいのために自分の身体の下に空間を作ってやる大河。
あいをつぶさなかったことに少し安堵のため息をついてから、顔の真下にあるあいの耳元で囁く。
大河「……悪い、……ちょっとだから大人しくしてろ」
あい「うん、……だ、いじょうぶ」
いつもと違ってかっこいい恰好で、電車の中だからいつもの大声ではなく囁き声で話す大河に壁ドンされている状況。
しかも大河が、満員電車で自分をつぶれないように守ってくれているのだとわかってどきどきしてしまうあい。
あい(……大河さん、って……)
ちらりとこっそり大河の顔を見上げる。顎のラインがキレイに見えて、いつもの怒ってたりする顔じゃないから余計にドキッとする。
あい(……顔は、かっこいいのかも……)
〇ロウの家/マンション廊下
ロウとその彼女・彩さんが住むという部屋の前。バタバタと髪を整えたり身繕いをして深呼吸をする大河とあい。
握手会を前にしたファンのように落ち着きがない。
大河と目配せを交わし合ってから意を決した表情で、インターフォンを押すあい。
あい「あ……あのっ! わたし、ロウくんの妹のあいです!」
インターフォンの向こうから聞こえたのはロウの声だった。
ロウ『あ、いらっしゃい! ちょっとまってね、今ドア開けるから……』
ガチャン、とドアが開く。
〇ロウの家
あい「!」
大河「!」
二人の目の前にいたのは、インターフォン越しに声をかけてくれたロウではなく、
あいからしたら見知らぬ女の人だった。
彩「あ、こんにちは~。はじめまして、とりあえず……奥までどうぞ! いらっしゃい~」
セットはしてないけれど、ふんわりまとまった髪、優しそうな目。
くつろいだ部屋着のまま、のんびりとした様子で二人を部屋にあげてくれる彩さんに、バチバチにキメた二人はすでに謎の敗北感を感じはじめていた。
あい「お、じゃまします……あ!!! ロウくん~~!!!!」
リビングのソファに座っていたロウに飛びついてハグするあい。
ロウ「あいちゃん、よく来たね~! 大河も、いつもありがとう」
大河「……おう」
久しぶりに本物のロウを堪能するあい。それを見てロウにハグしたい訳では無いが家族だからこその距離の近さを見せつけられて思わず表情を歪める大河。
それを見てマウント取るような顔を見せつけてしまうあい。また二人の間で火花が散る。
ロウ(なんか見つめ合ってるし、大河とあいちゃん、仲良しになったみたいでよかったな~)
彩「みんな、紅茶いれたから良かったらこっちでクッキーと一緒に食べて!」
○ロウの家 ダイニング
ダイニングテーブルで、あいと大河が隣に並んで、その正面にロウと彩が隣り合っている。
何故かがちがちに緊張している二人を見たロウがつぶやく。
ロウ「なんだか、二人とも似てるね! 仲良くやれてるみたいでよかった」
その言葉に、思わず無言になって二ヘラ…とごまかすように笑うしかないあいと大河。
おいしいクッキーと紅茶をもらってから、勇気を出して声を上げたあい。
あい「あ、彩さん、は……ロウくんとどこで知り合ったんですか?」
彩「大学の図書館で、取れなかった本を取ってもらったりしたんだ~。授業とかも全然被ってなかったんだけど、ロウくんの方から色々声かけてくれて……いい後輩だよ、ロウくんて」
ロウ「もういいでしょ、彩さん……恥ずかしいから言わないで」
ロウの照れるような態度に、かわいい!と思いながらもショックを受けているあいと大河。
あい・大河(かわいい! でも!! そ……んな顔!!! はじめて見たッ!!!)
ダメージを受けながらも負けてられないと続けるあい。
大人としてあいを止めた方が良いとは思うが、あいの気持ちもわかるから口に出せない大河。
あい「ロ…ロウくんのどこが好きですか! 本当に好きなんですか!」
質問の内容や口調が尋問みたいになっているのもわかっている様子で一瞬驚いた顔をしてから、それでも嫌がらずに話してくれる彩。
彩「……優しいし、照れ屋なのに、好きな人のために頑張れるところが好き、だよ」
ロウ「……彩さん…! ていうかあいちゃんも!もう照れるからオレに関する質問しなくていいよ!」
バチバチの空気に一人気づいていないロウ。質問はおわりー!と手をバタバタさせて質問を打ち切らせる。
あいは、目の前の寝癖も残ってる、ゆるゆる部屋着の、ロウより年上の女の人に完全敗北を悟って顔が白くなっていた。
あい(……ロウくんの一番は、わたしだったのに……)
適当な返事しかできなくなっているあいを、大河が気にかけるように横から見ていた。
お茶の後、少しお話しして一緒にボードゲームをして帰ることになったふたり。
見送る時にロウがお菓子を持たせるのを忘れたと部屋に戻る。
彩とあいと大河、3人になったタイミングで彩が言う。
彩「あいちゃんも、大河くんも……ロウのことが凄く大事なんだね」
あい「!」
大河「……まあ、そうですね」
あいが何も言えなくなっているのを見て大河がこたえる。
大河「……あいつから聞いてるかもしれないけど、……オレはあいつに、荒れてたとき、すげー助けてもらったんで……」
それを聞いて少し驚いてから、しかし納得するあい。頭の中にはガーッ!とあいに怒る大河のデフォルメ顔が浮かぶ。
あい(……荒れてた? ヤンキーってこと? まあそうかも……なんかわかる)
それを聞いた彩はそれを知っていた様子でかるく頷く。
彩「私も、ロウくんがすごく大事だよ。ロウくんを悲しませるようなことは絶対しないから。……これ私のLINO ID。何かあったら直接連絡してくれても大丈夫だよ」
IDを交換したところでロウが戻ってきて、なんとか笑顔でさよならしたふたり。
笑顔の絵に、あいのモノローグが重なる。
あい(……彩さん、が)
あい(…………嫌な女の人だったら、よかったのに)
なんとか無理やり笑っているあいを、やっぱり無言で見つめていた大河。
○街中 夕方
ふたりでとぼとぼ歩いている、お互いの憔悴した顔を見て面白くなってしまって、しょんぼり顔のままちょっと笑ってしまう。
大河「……メシ、行くかよ」
あい「大河さんのおごりならいーよ」
大河「かわいくねーガキだな……」
それでもご飯に連れてってもらう。
おしゃれな街のイタリアンに入ったけど、ふたりとも黙々と食べている、大河は静かにワインを飲んで、静かに酔い始めている。
あい「……彩さん、さあ」
大河「ああ」
あい「すっごい、すっごいやな女の人だったらよかったのにな」
あいが思わずつぶやいた言葉に、フッと笑う大河。
大河「……まあ、いいてえことはわかる」
大人な余裕があるみたいなことを言う大河に、むっとするあい。
あい「大河さんも失恋してるみたいな顔してるくせに!」
大河、その言葉にあいの予想と違って怒らずにふっと笑って眉を寄せて見せる。その寂しげな表情にドキッとしてしまうあい。
大河「……ああ、そうかもな……似たようなもんだ。あいつの相棒みてえになれたらって思ってたのにな、……オレの方は高校時代からあいつの事知ってんのに、結局一緒に住んでんのは出会って三ヶ月とかの知らねえ女だぜ」
あい(……ほんとに、すっごい寂しそうに笑うんだ……)
大人がそんな顔するのを初めて見たあい。自分もロウに対して似た感情を持つからこそ、同じ様に寂しい気持ちになって胸が苦しい。
あい(ロウくんへの気持ちとか……私たち、結構似てるんだ)
あい(大河さんのこと、やばい同担拒否ロウくんオタクかと思ってたけど…でも、わかっちゃうや、大河さんの気持ち…)
ふたりで静かにご飯を食べる。
○大河の部屋 夜
大河、部屋でため息をついている。
大河(……ロウが守りたいと思ったもの、大事にしたいと思ったものだから、自分も大事にしたいんだと思ってた)
○(回想)大河とロウの高校時代
ヤンキーぽい着崩した制服の大河に、ロウがスマホの画面を見せる。ロウは制服はきっちりただしく着込んでいる。
ロウ「この前、妹と一緒に水族館行ったんだ」
大河「へー……」
ロウとあいが仲良く写っている。あいはすごい笑顔。その写真を見るロウも、優しい笑顔を浮かべている。
大河「妹とずいぶん仲がいいんだな」
ロウ「うん、オレの人生で一番大事かも……年がまあまあ離れてるから、かもしれないけど……。かわいいだろ」
大河「……まあ、かわいい、んじゃあねーの」
大河、優しい表情のロウと写真の中のあいを見つめる。心臓がドキッと鳴る。
大河(お前と、お前が大事にしてえもの、……オレが守ってやれる様になりてえな……)
(回想終了)
大河(……ロウの彼女と妹、そりゃ違うものだとはわかっているが、)
彩の姿と、あいの姿が大河の脳内にフラッシュバックする。
きらきらして見えるあいの姿、怒ったり笑ったり、すごく可愛く見えている。
大河「……そんなの関係なく、オレが守ってやりてえって思ったのは、……お前ってことかよ……」
ロウに写真を見せられたときのドキッとした感覚が、一目惚れだったことにようやく気づいてしまう大河。
赤い顔で怒った様に眉を寄せる。
大河「……くそッ…」