意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー

第5話


○朝 大河とあいの家 リビング

あい(……ぜんっぜん……寝れなかったんだけど……)

寝不足の様子のあい。目がしょぼしょぼしている。

頭の中で、あいは見ていないはずの大河が自分の額にくちびるをのせたシーンが浮かんでしまって、
慌ててそれを振り払う。

あい「いや……ない! ほんとに! 絶対! ないから!!!」

朝ごはんの準備をしながら赤い顔でひとりあわあわしているあい。

あい(……もしかして、なんか……眠くて、夢見てたんじゃないの!?)

それだ!と一人納得した顔でうなずくあい。

あい(たぶんロウくんの夢を見たんだよ! ていうか 大河さんがそんなことするわけないし! 絶対ないし!)

すでにもう朝ごはんも終えて部屋を出ようとする大河をチラリと見つめる。
見られている事に気づいた大河、いつもの眉間にシワを寄せた怖い顔で見返してくる。

大河「……なんだよ」
あい「別に!」

大河のいつも通りすぎる態度に、余計に恥ずかしくなってしまうあい。

あい(やっぱり! これ絶対夢だったやつじゃん! ……でも、なんかとんでもない夢見ちゃったな……)

あい「……あ! やばいもういかないと!」

時計を見てハッとするあい。それを見て、怪訝な顔を浮かべた大河。

大河「……今日は土曜日だろ?」
あい「課題に図書館の本が必要なの! 早く終わらせてちゃんと土日を謳歌したいから!」

バタバタと、自分で準備した食パンとかを口の中に詰め込んで玄関に走るあい。

あい「いってきまーす!」





○昼 街中

あい(……いま、どこにいるのかもわからない……なんで歩き始めるとGPSが変な方向にすっ飛んでいくのかも、わからない……)

ぐるぐるとスマホを回転させながら画面を睨みつけているあい。
図書館に行きたいだけなのに、自分がどこにいるのかも、進行方向がどっちかもわからない。
完全に迷子になっていた。

あい(……もう、高校生にもなってこんな方向音痴の迷子なんて!)

??「ねえ、君……どうかしたの? さっきからずっと同じところにいるみたいだけど……」

かけられた声にびっくりして振り返るあい。
目線の先には、見知らぬ男の人が立っていた。

茶色に染めた髪を、ふわふわのパーマにしていてまるでおしゃれなプードルのよう。
キツく見えてもおかしくないような狐目だが、柔らかな笑みのおかげで怖い顔には見えない。

あい「あ……えっと、図書館に行きたいのに、全然道がわかんなくて……」
狐目の男「ああ……この辺、結構近くに図書館がふたつあるんだ。大学が開放してる図書館と、市立の図書館……どっちに行きたいの?」
あい「え! ふたつ……しらなかった……えーと、市立の方を探してて……」

しどろもどろで答えたあいを、くすっと笑って見つめてくる狐目の男。
『素敵なお兄さん』といった感じの姿に、すこしドキッとするあい。

狐目の男「よかったら、スマホ貸してくれない? 見てあげる」

言われるがままに、地図の画面を出したままスマホを男に手渡すあい。
なんとなく、警察官外面モードの大河に見つかったときのことを思い出していた。

狐目の男「あ、目的地はちゃんと市立図書館になってるね。でも地図の中に大学図書館が写ってるから解んなくなっちゃったんだと思うよ」
あい「えと、そう、かもです……! ありがとう……」

男からスマホを返されながら、脳内でつぶやくあい。

あい(迷子のなりやすさ的には、多分、それ以前の問題なんです…!!! まず今の、スタート地点がわかんないんだもん……!)

男が、少しうーんと考え込むような顔をしてから言う。

狐目の男「オレも目的地図書館の方だから、よかったら案内しようか? ここから5分あればつくよ」
あい「え! いいんですか…! 迷惑じゃなかったら、お願いしても……?」

にこっと笑って見せる男。

狐目の男「もちろん! 役に立てたら嬉しいよ。じゃあ行こうか!」
あい「はい! ありがとうございます!」

話しながら歩いていく二人。

あい「あの…お兄さんは、大学生さんですか?」

大学の図書館のことを知っていたことを思い出し、ふと聞いて見るあい。
あいに気付かれない角度で一瞬冷たい目をしてから、すぐにニコリと笑顔を作って返して来る男。

狐目の男「そうだよ、大学3年。……あと、オレは昴っていうんだ。よろしくね」
あい「昴さん…はい! よろしくお願いします! 私は、えっと、稲葉あいっていいます!」
昴「あいちゃん。……可愛い名前だ」

そんな事言われながらにこ、と笑いかけられてびっくりするあい。

あい(……何考えてんの、私にはロウくんがいるのに…!)

ドキドキしてしまった自分を振り払うようにブンブンと頭をふるあい。

あっという間に図書館の前にたどり着く二人。

あい「ありがとうございました! ごめんなさい時間もらっちゃって……」
昴「ううん、全然……気にしないでね。……あのさ、これもしよかったら」
あい「?」

なにかを手渡されるあい。照れた様子の昴。

昴「……これ、オレのLINOのID……、やっぱごめん! 突然こんなの渡されてもキモいよね! ごめん忘れて……」
あい「全然! 良いです! 私最近引っ越してきたらこっちの友達増やしたいなーって思ってたから…ありがとうございます」

手を引っ込めようとした昴から紙を改めて受け取る。
嬉しそうにふわりと微笑む昴。

それじゃあまた、そう言って別れる二人。

あい(……この人、なんていうか……凄く、かわいいなー…)

じんわりとそう思いながら、渡されたIDを胸の前できゅっと握りしめるあい。


○夜 大河とあいの家 リビング

のんびりとソファでスマホをいじっているあい。
朝の慌てぶりとずいぶん違う様子を見て大河が声をかける。

大河「で、課題は終わったのかよ」
あい「うん! 図書館行くのにちょっと迷子になったけど……でも知らないお兄さんが助けてくれて、図書館まで連れていってくれて……」
大河「あ? 今なんつった?」

急に声が低くなった大河にびくっとするあい。

あい「だからあ、ちょーっとだけ迷子になったけど、知らないお兄さんが声掛けてくれて大丈夫だったの、図書館まで一緒に行ってくれて、凄くいい人で……」
大河「……お前、アホか!! 危機感持てよ!」
あい「ハア!? 何が!?」
大河「知らねえガキにわざわざ声かけてきて突然道案内とかしてくるような男がまともなワケねえだろうが! そんな事もわかんねえのか!」

怒鳴る大河。本気で心配していて、表情は少し焦りの表情。
そんなこと言われると思わなくてびくっと身体を震わせるあい。強い言葉で、余計に怖い気持ちになってしまう。

あい「何で、そんな言い方しかできないの……」

怒って言い返そうとしているのに、大河の本気の声を正面から当てられて勝手に涙が出て来てしまうあい。ぼろぼろと泣いてしまう。
ばつの悪そうな顔で近づいてくる大河。あいが座っていたソファの前にしゃがみ込むと、泣いているあいの涙を大河の指が拭う。

大河「……大声出して悪かった、だけど……心配なんだよ……」

涙が止まらないのがなんだか悔しいあい。ちょっと生意気に、泣いたまま無理やり口角を持ち上げて馬鹿にするみたいな表情を浮かべる。

あい「……そうだね、お兄ちゃんに合わせる顔がないもんね? 私が馬鹿やったせいでロウくんに失望されたくないもんね」
大河「……そうじゃねえよ」

大河の手がそっとあいの肩に手をかけられる。大きな手は熱くて、むしろその重さが心地よく感じられるあい。

大河「……ほんとに、怒鳴って悪かった……」

照れながら、怒っているように眉間にぐっとシワを寄せている大河。
あいの方を見れない。
そんな珍しい顔を見て、不思議な気持ちで大河を見返すあい。

あい(……そうじゃねえって、どういうこと…?)

大河の表情と言葉で、少し考え込むように眉を寄せるあい。

あい(……でも、私のこと……アホって言うんだ。大河さんからしたら、そりゃ、アホだし、ガキだし……)

悔しくて余計涙が出てきてしまうあい。

あいが泣き止むまで隣にいるつもりの大河。何度も肩を撫でている。
あいのポケットの中で、スマホが通知を知らせて震える。

ふたりとも気づいていない、昴からのLINOの通知が届いていた。



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