意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー
第6話
○朝 大河とあいの家
私服で出かける準備をしているあい。キッチンで洗い物をしている大河の背中に声をかける。
あい「……いってきます」
大河「……おう」
あい「……」
玄関で出る準備をしながら、あいのモノローグが重なる。
あい(あのあと、一週間は経ったけど……結局ギスギスしたままで、……全然会話もなくなっちゃった)
あい(私……大河さんに頭ごなしに馬鹿にされたの、凄く傷ついたんだ。……何にも考えてないんだろ、って……言われたのとおんなじだ)
あい(……だから、まだしばらく……大河さんのこと、うまく許せない)
玄関を出るあい。そのタイミングでスマホのバイブが鳴る。
エレベーターに乗り込んでから通知を見るあい。『昴』からの連絡。
昴[スマホ画面] 『今日はよろしくね! あんまり相談できる人もいなかったから助かったよ』
あい[スマホ画面]『大丈夫です! お役に立てるかわかりませんが……妹さんのプレゼント探し、手伝うの楽しみです!』
○朝 街中
マンションを出て、駅に向かって電車に乗っていくあい。短く場面場面で1コマずつ見せる。
あい(だって昴さん、ロウくんみたいに妹思いのお兄ちゃんなんだよ? それなのに大河さんあんなふうに言って…)
待ち合わせ場所で、先に来ていた昴を見つけて手をあげるあい。
嬉しそうにあいを見返す昴。
あい「おまたせしました! それじゃあ……お誕生日プレゼント、探しにいきましょう!」
○昼 街中
ウィンドウショッピングをしている二人。
アクセサリーを見たり、かわいいマグカップをみたり、決めきれずにウロウロしている。
昴がじっとこちらを見つめているのに気づくあい。どうかしたのかと聞くように首を傾けて見せる。
あいのその不思議そうな顔を見て、くすっと笑ってみせる昴。
昴「……なんか、デートみたいだね」
びっくりして目をまんまるにしながら、持っていたぬいぐるみを取り落としそうになるあい。
慌てて掴み直そうとして、同じく慌てて手を伸ばした昴の手にぎゅっとぬいぐるみごとあいの手が包まれる。
あい(う、わ!)
自分の手が男の人にこうして握られるなんてはじめてで、ドキドキしてしまうあい。
昴「あ! ごめん! ……嫌じゃなかった?」
あい「全然…、嫌、じゃないです…」
怒りながら心配した大河の顔が脳内に浮かぶあい。しかし目の前の昴の笑顔にかき消されてしまう。
あい(昴さんは……何よりもまず最初に心配してくれるんだな……)
○昼間 カフェ
カフェのテーブル席に座っている二人。飲み物がそれぞれの前に置かれている。
昴「今日は休みの日にごめんね、付き合ってもらっちゃって……」
あい「全然です! 役に立てたかどうか…」
昴「役に立つどころか……めっちゃ助かりました! こんなの、僕一人じゃ見つけられなかったと思うから……」
嬉しそうに白い紙袋を持つ昴。限定の化粧品と、アクセサリーのセットが入っている。
あい「……昴さん、本当優しいな……。誰かさんとは大違い!」
昴「誰かさん?」
あい「そう! えっと私、一緒に住んでるのがお兄ちゃんの友達?の人なんだけど……すっごい上から目線で……。本当のお兄ちゃんは昴さんみたいに優しいんだけど!」
慌てた様子で付け加えるあい。少し考えるような顔をして、それから口を開いた昴。
昴「あんまり、仲良くない男の人と住んでるの?」
あい「そう、ですね……うん、仲良く、ないです」
昴「でも一緒に住んでるんだ。……オレ、なんか……」
テーブルに置かれたままのあいの手に、昴が自分の手を伸ばす。
そっとあいの右手を撫でながら囁く昴。
昴「妬いちゃうかも」
あい(ひ、ひえっ……!)
少女マンガみたいな仕草に、ドキドキになってしまうあい。
いつもにこにこしていた昴の目が妖しく光る。
あい(そんな顔、どうして……!)
知らない表情で見つめられて、手をにぎられて、赤い顔のままパニックで爆発寸前だったあい。
その瞬間、スマホが鳴りはじめる。
ぱっと手をふりはらって、掴まれていたほうの右手でスマホを手にとってごまかすあい。
あい「わ、あ! ごめんなさい! 電話……でないと!」
あい(……ロウくん?)
画面の通知を見て少し驚くあい。
あい「……もしもし?」
ロウ[電話]『……あ、い……ちゃん……?』
あいが聞いたこともないような苦しそうな声を出しているロウ。電話越しにぜえぜえと荒い息を吐いているのがわかる。
あいの表情が凍りつく。
あい「ロウくん!? どうしたの!?」
ロウ[電話]『大したことじゃあないんだけど、さ……ちょっと、助けて、欲しくて……家には、いるんだけど……』
あい「だ…大丈夫? わたしすぐ行くから! でも、ねえ何があったの!」
それに返事はなく、ぶつんと電話が切れて絶望の表情を浮かべるあい。
昴「どうしたの? 大丈夫?」
あい「ご、ごめんなさい……私、行かなきゃ……。あの、ほんとごめんなさい! また連絡させてください!」
そう叫んで慌てて店をでるあい。
一瞬悩んでから、あいは大河に電話をかけた。
大河[電話]『……何かあったのか?』
大河の声を聞いただけで、安心感で涙ぐみそうになるあい。
あい「ろ……ロウくんが、助けてって! 急に電話してきて! 私に、助けてって……すごく苦しそうな声で!!」
大河[電話]『……場所は? 聞いたか』
あい「い、家、いえにいるって……」
大河[電話]『わかった、すぐ向かう。……お前も来れるか?』
あい「うん! 直接ロウくんの家に向かうから!」
○昼間 ロウのマンション
エレベーターホールにいるあい。エレベーターが来るのが遅くて階段で行くかどうかキョロキョロしている。
大河「あい!」
あい「……っ、大河さん!」
駆けつけてくるも、全力ダッシュで息が上がっている大河。
服もいつもと比べればだいぶ適当で地味な格好、急いできたのだとわかる。
ちょうど到着したエレベーターにふたりで乗り込む。
廊下を走っていった先、ロウの部屋にたどりつく。
慌てて鍵があることも忘れた様子でドアノブを回すあい。
部屋の鍵は閉まっておらず、雪崩れ込むように部屋に飛び込む二人。
あい「きたよ!大丈夫…? !!!」
苦しそうにベッドで横になっているロウの隣に、彩がやつれた顔で立っている。
その手にはナイフが握られていて——。
あい「ロウくんっ!!!」