意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー

第9話

○夕方 街中 通学路 

あい「……はぁ」

ため息をつきながら、家への道をゆく帰宅中のあい。
頭の中に浮かぶのは、大河が自分に手を伸ばしてきた時の表情と、「あい」と優しく呼ばれた声。

あい(……私、なんか……嬉しい、気持ちになってるの……?)
あい(大河さんは……厄介な同担! それだけ! の、はずなのに……)

あい「私の一番は、ずっとロウくんなんだから! こんな……同担に気を取られてる場合じゃない! 推しを見ろって!」

そう自分に言い聞かせながら歩いているあい。
ふと、道路の反対側、車道よりの道で見知らぬ男の子が泣いているのに気づく。

あい(……あぶないな、大丈夫かな……でも公園の近くだし、保護者も近くにいるのかも…)

そう思いながら通り過ぎようとするあい。
しかし、頭に警察官モードの大河が浮かぶ。
ずっと泣き声も止まず、結局はくるりと足を後ろに向けて道を渡ると、泣いている少年の元へと向かう。

あい(……大河さんの影響、だな)

少年があいを見て、少しびくっとして泣き止む。
少年の目の前にしゃがみ込んでニコっとしてみるあい。

あい「こ、こんにちは~……」

あい(あ、あやし~~~~)

自分の声の慣れていなさ、怪しさに自分でそう思ってしまうあい。

あい「あ~、あのさ……もしかしておうちの方向わかんなくなっちゃった?」
男の子「ち、違うもん! わかってるけど、遠いなーって思ってるだけだもん!」
あい「そうなんだあ。……あのさ、お姉ちゃん……すっごく迷子になりやすくて、道がわかんなくなっちゃったから……今からおまわりさんに道を聞きに行こうと思うんだけど、……どうかな? 一緒に行かない? この前近くでパトカーも見せてもらったんだ」

あい(……半分くらいは、嘘じゃないな……迷子になりやすいのは本当の本当だし)

考えこんでいる様子の男の子。首をかしげて見せるあい。

男の子「……一緒に、行ってあげる」
あい「本当? ありがと~! この前一人でおまわりさんに道聞きに行ったんだけどね、緊張しちゃって……」

こっそりとスマホで地図を調べるあい。
それからふたり、手をつないで歩き始める。

あい(大丈夫……この前、大河さんがいる交番までたどり着けたし、行けるはず……そうじゃなきゃ高校生とちっちゃい子のコンビ迷子になっちゃうよ~~!)

緊張しながら、一歩一歩進んでいくあい。曲がり道の度に一瞬考えこんでから、曲がる、
というのを繰り返してゆっくりゆっくり道を進んでいく。

あい「あ! ……あっ…たああああ……」

身体が緊張して強張っていたのを、緩んだ感覚で理解するあい。
以前のように大河は交番の外にはいない。

あい(……もしかして見回りかな……それならほかの人に相談すればいいだけだけど……)

交番に近づいたあい、パニックになっている様子の男の人と大河が話しているのに気づく。
一瞬逡巡してから、交番のドアをあける。

あい「えーと、こんにちは! えっと、あの……私たちに道を教えてほしくて!」

パニックしてた男の人「翔くん!」

大河と話しこんでいた男の人が叫ぶ。
あいと手をつないでいた男の子が、あいの手を振り切って駆けだす。

男の子「パパ!」

抱き合って泣いている二人を少し驚きの目で見ているあいと大河。

男の人(翔の父)「す、すみませんありがとうございます! 買い物の途中ではぐれてしまって、本当に……」

大人の人がボロボロと泣いている姿を見て少し驚いてしまうあい。

男の子(翔)「翔がね、この人、交番に行きたいっていうから連れてきてあげたんだよ」
あい「そうなんです~!だから全然……全然気にしないで!」

何度も何度も謝ってくる翔の父に何度も首を振って気にするなと返すあい。
しばらくやり取りをしてから、交番から翔親子が出ていく。急にしんとした空間に取り残されるふたり。

大河「……やるじゃん」
あい「本当にそう思ってる~??」
大河「ああ。思ってるよ」

にっ、と笑ってから近づいてくる大河。

大河「よくやった」

そう言って、ぽんぽんとあいの頭を撫でる。
びっくりして固まるあい。

真っ赤な顔を隠すように思わず下を向くあい。

あい(……こんなの、)

あい(ロウくん以外の誰にされても絶対やだって思ってたのに……)

あい(私、いま……やっぱり喜んでる……!?)




〇夜 あいと大河の家 リビング

スーツ姿で家に帰ってきたばかりの大河の前、テーブルではあいがせっせとロウの写真を硬質ケースに入れて、
シールでデコっている。

大河「……何だ、それ」
あい「推し活! 最近出来てなかったから!」

大河の方を向かないまま言うあい。ネクタイを緩めながら大河が言う。

大河「……なんで写真の上にシール貼るんだ」
あい「えー……かわいいから? あと推しをきらきらで飾ると楽しいから……」

あい(初志貫徹! 初心を忘れず! 私がここにいるのはあくまでロウくんのため!)

言い聞かせながら、写経のような静けさと丁寧さで、ロウの写真を透明な硬質ケースに入れ、シールをはって……を繰り返すあい。
その様子を、じっと見つめている大河。無言で自分の部屋に消えていった。

あい(……やけに静かだったな……)

あい、もう一枚の写真を手に取ったところで、大河が部屋から戻ってくる。

大河「……オレの写真の方が、いい写真してんぞ」

ニヤッと笑いながらあいの目の前に出してくるのは、高校生のころのロウが、制服でピースしてる写真。

あい「は!!!?めっちゃくちゃいいじゃん!!!」

興奮したあいの言葉に、悪くニヤッと笑う大河。
久しぶりにオタクマウンティングを取るような顔を見られて、すこしホッとする気持ちになるあい。
大河にむかってシールと硬質ケースを見せる。

あい「大河さんもやってみる?」
大河「……貸してみろ」

ダイニングの椅子に座り、大きな手でやりずらそうに、でもかわいいきらきらしたシールを真剣な顔でちまちまと貼っていく大河。
それを見つめているあい。

あい(……なんか、……かわいい、じゃん……って違う違う!)
あい(……大河さんは、なんで私のことたまに優しくするんだろ……わかんないよ……)

大河「なかなかよくねえか? ロウには星が似合うな」

バランスよくないシールの貼り方してるけど、満足そうな大河。
リビングにある飾り棚にそっと自分が飾ったロウの写真を立てかける。

あい(……なんか)

大河が一生懸命にロウの写真をかざる最適な角度を探しているのを、テーブルに肘をついたままながめているあい。

あい「なんかさ、大河さんと一緒にいるの……楽しくなってきた」
大河「……そーかよ」
あい「そーだよ」
大河「生意気いいやがって。……ま、そうは言ったところで、あいつのことわかってんのはオレの方だけどな」

そう言って、大河はニヤッと悪い笑みをあいに浮かべて見せる。
せっかく素直に気持ちを伝えてみたのにそんな態度を取られて、眉毛が持ち上がるあい。

あい(この同担拒否マウンティングさえなくなればね!!)

 



〇夜 某所 暗い室内

男が一人、電気も付けないままPCに向かいながら何か作業をしている。
机の上にあったスマホが鳴って、男がそれを手にとる。

画面の中にうつっているのは、警察官姿のロウが、あいの頭を撫でている、その日の昼間の光景だった。
隠し撮りされた写真を、男が凝視する。

男は、あいを道案内してくれた大学生の昴だった。
あいに見せていた顔とは全く違う、ひどく不機嫌そうな表情でその画面を睨みつけている。

「大河……ずいぶんこのガキをかわいがってるんだね。あいつの妹だから? あいつ……あの男……!」

ぎりぎり、と歯ぎしりをする昴。
壁に向かってスマホを放り投げる。スマホの画面にひびが入って、写真の中の大河とあいの間が割れる。
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