6月のシンデレラ


顔を隠さなければいけないほどのことって何だろうと思いつつ、私たちは近くのカフェに入った。


「改めて自己紹介させてください」


コーヒーを飲みながら、青人さんはそう切り出した。
年は私の三つ上。美容専門学校を卒業し、3年のアシスタント経験を経てスタイリストデビュー。
今の美容室は今年から勤め始めたという。


「恥ずかしながら、父とは折り合いが悪く…美容師になることも未だに認めてもらえていないんです」

「そうなんですか」

「未だに実家へ帰って家業を継げと言われてます」


ご実家は自営業なのだろうか。
どこまで突っ込んで良いかわからず、私はただ相槌を打っていた。


「家業を継がないのなら、見合いをして結婚しろと言われました」

「それは、お父様の決められた方とですか?」

「はい。父は家を継ぐ跡取りが欲しいんです。自分が継がないなら早く孫を作れ、ということなのでしょう」


青人さんはとても苦々しい表情をしていた。


「俺はどうしても父に人生を決められることが耐えられなかった。俺の人生は俺のものなのに」


拳を握りしめ、苦悶の表情を浮かべるこの人を、チャラい人だなんて思えなかった。
自分の望む人生を歩みたい、ただそれだけなのだと。

それは私も同じだった。


< 12 / 100 >

この作品をシェア

pagetop