6月のシンデレラ


その言葉を飲み込むのとコーヒーを飲み込むのが同時で、思わず咽せそうになった。


「デート…ですか?」

「はい…俺は喋るのが得意じゃなくて、店長にももう少し愛想良くしろと言われているんです。
実を言うと、今も緊張しています」

「そうなんですか?」


全然そんな風には見えない。
待ち合わせの時はあんなにスマートにナンパから助けてくれたのに。


「ですからその…咄嗟の時にボロが出ないためにも、本物の恋人らしく振る舞ってみるのはどうかなと…」

「偽装なのに、そこまでするんですか?」

「偽装だからこそです。お話を伺う限り、伯母さんは並のことでは納得しないと思います。
より恋人らしさ…というものが必要かと」


なるほど。
それを言われると、私も恋人らしさというものはよくわかってない。

何しろ恋愛経験がないから。


「わかりました。デートよろしくお願いします」

「そんなに深々頭を下げなくても…」

「いえ、ご指南いただく気持ちで臨みます」


すると、青人さんの表情が崩れ、初めて口を開けて笑った。


「面白いですね、永美里さん」

「そうでしょうか」

「恋人同士ですから、敬語はやめましょう」

「でも、年上なのにタメ口は…」

「恋人らしく振る舞うんでしょ?」


< 14 / 100 >

この作品をシェア

pagetop