6月のシンデレラ
「――すみません、彼女との約束は僕が先約なんですが」
その時、王子様が現れたと本気で思った。
「な、なんだお前は…!」
「永美里の恋人です」
虎橋副社長から私を引き剥がし、優しく肩を抱いてくれる。
その手に守られていると実感すると、酷く安心できた。
青人さん、どうしてここに――…?
「こ、恋人だと!?」
「はい、結婚を前提にお付き合いしていますが、何か?」
「デタラメ言うなっ!永美里さんは、ぼくと結婚するんだ!もう決まっているっ!」
「では、諦めてください。彼女は僕のものです」
――これは、偽装恋人としての役割を果たしてくれているだけだって、わかってる。
わかってるはずなのに、胸のときめきが止まらない。
「ふ、ふざけるな…っ!永美里さんはぼくのものだああああ」
「…っ!青人さんっ!!」
虎橋副社長が青人さんに向かって、拳を突き付けようとした。
危ない、逃げて……!!
そう叫ぼうとしたけれど、青人さんは微動だにしない。
私の肩を抱きしめたまま、空を切る拳をもう片手だけで受け止めた。
「ぐう…っ!」
受け止められると思っていなかったのか、虎橋副社長の唇は震えている。
だけどそれでは諦めず、もう片方の拳を突き上げようとした。
――今度こそ、本当にダメだわ……っ!!