6月のシンデレラ
父からエミリの両親が交通事故で亡くなったと聞いた。
頭の中が真っ白になった。
通夜に行く父に自分も連れて行って欲しいと頼み込んだが、父は首を横に振った。
「だめだ。そもそも通夜も葬式も親族だけで執り行われることになっている。
私は特別に通夜だけ参列させてもらうが、子どものお前は連れて行けん」
「でも…っ」
「青人、お前は九竜家の跡取りとしてやるべきことだけをやれ。もうすぐ大会が迫っているだろう」
父はそう言って踵を返した。
父はいつもそうだ、口を開けばそればかり。
うちは代々あらゆる武道に精通し極める武道の名門・九竜道場を構えている。
その師範である父は空手、柔道、剣道といった様々な武道を極め、その弟子たちは皆日本の将来を担う選手たちばかり。
父は昔から誰に対しても面倒見が良く、人望の厚い人だった。指導者としての実績も輝かしいものだ。
だけど、息子である俺には誰よりも厳しかった。
今まで父に褒められたことなど一度もない。
かけられる言葉はいつも「九竜家の跡取りとしてやるべきことをやれ」。
俺自身には興味がない。
俺はただ、エミリに会いたかっただけなのに。
一人で泣いているであろうエミリの傍にいたかっただけだ。
今頃エミリは――…