6月のシンデレラ


惹かれるなという方が無理だ。

手を伸ばすことは許されないと思いつつ、自分を雁字搦めにするともっと欲しくなる。
いつか別の男が永美里の隣に立つのかと思うと、嫉妬で狂いそうになる。

永美里の幸せを願っていたなどと、よくも言えたものだと思う。


「そういえば、青人さんはどうして美容師になったの?」


永美里にそう聞かれた時、ほんの僅かでも自分を思い出して欲しいと思った。


「…昔、よく一緒に遊んでた女の子がいたんだけど、その子の髪をアレンジしてあげたら、すごく喜んでくれて。それが嬉しくて、美容師の仕事に興味を持ち始めたのがきっかけ、かな」


忘れてくれていいなんて、思っていた時もあったな。
全部が矛盾してしまった。

恋というものは、恐ろしい。
いや、俺をここまで強く揺れ動かすのは、後にも先にも永美里しかいない。


「私も青人さんといるの楽しい。男の人と話すの苦手だったけど、青人さんはすごく話しやすくて…」


そんなことを言われたら、もっと君が欲しくなる。

正直幸せにできる自信なんてない。
俺の家は特殊だし、勘当された身だとしても恐らくあの家と完全に絶縁するのは無理だろう。

どう考えても俺じゃない方がいい。
でも、誰にも渡したくないんだ。


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