6月のシンデレラ


目の前で永美里を連れ去ろうとする小太りの男を見た時、全身の血が熱くなるのを感じた。
下衆で気持ち悪い視線を永美里に向けているだけで、殴り飛ばしたくなる。

なるべく平静を装い、男から永美里を引き剥がした。
自分から殴ることは何とか押し留めたが、そっちから手を出してきた場合は知らない。


「そちらこそ、九竜家の妻となる女性に手を出して、どうなると思っているんですか?」


家の名前を出すなんて普段の俺なら絶対にしないが、永美里を守るためなら手段は選んでいられなかった。
プライドもどうだっていい。


「申し遅れました、僕は九竜青人といいます。
祖父の代からお世話になっております」


虎橋グループが大企業として成り上がる前、俺の祖父が当時の門下生だった現虎橋グループ社長に出資をした。
多額の借金を肩代わりしたのも祖父だったそうだ。

社長は祖父を大恩人とし、借金を完済した今でも毎年お中元、お歳暮といった節目に贈り物が届く。
ちなみに副社長は父に柔道を教わっていたそうで、それは厳しくしごかれたらしい。

その時の記憶でも蘇ったか、顔面蒼白になって逃げ去っていった。
まあとにかく、これで永美里に二度と手出しはできないし、縁談も破談確定だろう。


「それならそうと、どうして最初に言ってくださらなかったの?」


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