6月のシンデレラ


お父様の醸し出すオーラに気圧され、自然と背筋は伸びるし何故か冷や汗もかいていた。


「あなたが永美里さんだね」

「は、はいっ」


急に名前を呼ばれ、思わず声が上ずってしまう。


「美兎永美里と申しますっ」

「あなたのご両親にはとても世話になった。幼いあなたもよく遊びに来ていたが、覚えているかね?」

「も、もちろんですっ!」

「そうか。とても立派に成長されて、ご両親もさぞお喜びだろう」

「そんな…ありがとうございます」


お父様の言葉には、私に対する気遣いや配慮の気持ちが感じられた。
厳格なお人かと思っていたけれど、とても優しい方だと思った。


「永美里さん。大体の話は青人から聞いている。
ご両親を亡くされてから、大変苦労をされてきたようだ」

「いえ、とんでもないです…」

蛇塚(へびづか)コーポレーションが傾いていることは聞いているよ」


蛇塚コーポレーションは伯父の会社名だ。


「しかし、まさか姪を嫁に出して後ろ盾を探していたとは…何とも前時代的だな。
念のために永美里さん自身の意思を確認しておきたいのだが」


私の意思…それは当然決まっている。
お父様の目を真っ直ぐ見て、はっきりと自分の意思を述べた。


「私は、私の意思で結婚したいと思っています。
伯父にも伯母にも大変感謝していますが、正直政略結婚の道具にはなりたくありません…」


< 63 / 100 >

この作品をシェア

pagetop