6月のシンデレラ
お父様とのお話を終え、青人さんと二人きりになったところで、私たちは抱き合った。
「青人さん…!私のためにありがとう…っ」
「永美里、これでもう大丈夫だよ」
「嬉しい…!何より結婚を認めてくださったことが!」
「…認めてくれたというより、利があると判断しただけだよ。相手は誰にせよ、俺に結婚させるつもりがあったらしいから」
「あら、じゃあ青人さんの嘘は実は本当だったわけね」
嘘というのは、青人さんが親に結婚しろと迫られていると言っていたこと。
どうやら嘘ではなかったみたいだ。
「ごめんね、永美里。本当はあの家に君を縛り付けるようなことはしたくなかったんだ。
永美里には誰よりも幸せになって欲しいから」
「どうして?私とっても幸せよ」
「永美里…」
「大好きな人とずっと一緒にいられるのに、これ以上の幸せはないわ」
青人さんは私のために、美容師の夢を捨てる覚悟でお父様に頼み込んでくれた。
きっとかなりの時間をかけて、説得してくれたんだと思う。
青人さんにもきっと譲れないものが沢山あったはずだけど、すべて私のために注ぎ込んでくれた。
だから、今度は私が青人さんを支えたい。
「青人さんと出会えてよかった…」
「俺もだよ、永美里」
私のことを見つけてくれて、ありがとう――。
この時の私は手元にある幸せを抱きしめることに浸っていて、何も見えなくなっていた。
すべてが上手く進みすぎていて、歪みが生まれていたこと、歪みが迫っていることに気づく由もなかった。