君の音色に恋してる

2話

■都立芸術高等学校・練習室(夜)
バイオリンを片手に怒った顔の結城。
結城「テンポ!」
真希、申し訳なさそうな顔。

■同・練習室(朝)
弦を真希に向ける結城。
結城「解釈が違う!」
真希、無表情。

■同・練習室・外(朝)
梨々香、廊下から2人の様子を無言で見ている。

■同・練習室(夕)
手に持った楽譜を真希に向ける結城。
結城「なんていうか…ここはもっと特●呪物みたいな感じで!」
真希「なんだそれ!?」
椅子から立ち上がり結城に突っかかる真希。

■同・屋上
真希、空に向かって、
真希「いや、呪●師じゃないんですけど?!」
由梨「おー、どうしたどうした」
真希、イライラした顔で、
真希「なんか結城の指示が…そこは猫が踊ってる感じで、とか、もう少しつるんとした感じで、とか…」
由梨「はは、天才は感性も違うね!」
真希「独特すぎてついていけない」
頭を抱える真希。
由梨「何弾くんだっけ?」
真希「タルティーニのヴァイオリンソナタ『悪魔のトリル』」
由梨「おお!結城らしいチョイスってか皮肉か?」
真希「え?なんで?」
由梨「あれ、知らないの?結城は「悪魔」って呼ばれてるんだよ」
真希、怪訝そうな顔で、
真希「悪魔…?」
由梨「あまりの超絶技巧に『悪魔に魂売ったんじゃないか』っていうバカみたいな冗談から悪魔って呼ばれるようになったみたいよ」

× × ×
(フラッシュ)
校庭でバイオリンを弾く結城の姿。
× × ×

真希(悪魔…いや、あれはそんな生やさしいものじゃない…人の心を食うバケモノだ)
結城の声「悪魔で悪かったな」
真希と由梨、勢いよく振り向く。
真希「びっくりした!毎回心臓に悪い登場の仕方しないでくれる!?」
結城「別に?はい、これ」
真希にポチ袋を渡す結城。
真希「何これ」
結城「明日からゴールデンウィークだから特別出張料」
真希「は?ん?え?」
結城「私の家で5日間合宿するから、じゃ、詳細はまた連絡する」
手を振り、校内に戻っていく結城。
真希「えー、まじで?泊まり?」
冷や汗を流す真希。
由梨「臨時収入だね!」
拍手をする由梨。
真希(えええええ、男の子の家に泊まりとか!!)

■結城家・玄関・外
門の前に立ち尽くす真希。立派な洋館が建っている。
真希(いや、めっちゃ豪邸)
チャイムを押す真希。
真希「あ、小瀬ですけど」
結城の声「ちょっと待ってろ」
真希(なんか、やっぱ住む世界が違うんだな…)
玄関の開く音。結城が出てくる。
結城「どうぞ」
真希「どうも」
中に入る結城と真希。

■結城家・廊下
結城の後ろに続く真希。キョロキョロと周りを見渡す。
壁に賞状がたくさん並んでいる中、家族写真が1枚貼られている。
蝶ネクタイをした3歳くらいの少年と両親が立って写っている。
真希「すごい家だね、英才教育とか受けてたりして」
真希(まあ当然だろうけど)
軽く後ろを振り返る結城。
結城「いや、バイオリン始めたのは6歳のとき」
真希、面食らったような顔をする。
真希「え、遅いんだね?他の楽器やってたの?」
結城「あー、俺、養子なんだよね。この家に来たの3歳のとき」
真希「え?」
結城、扉のドアを開ける。中にはピアノと譜面台が置かれている。
結城「はい、どうぞ」
真希、気まずそうな顔で中に入る。

■同・練習室・中
ピアノの前に真希と結城が座っている。
真希の譜面に、『テンポ一定に』と書き込みを入れる結城。
結城「大分慣れてきたな!そろそろ合わせの練習に入るか!」
真希「…あの、さ」
結城「ん?」
真希「さっきはごめん、言いたくないこと言わせた?」
結城「ああ、家のこと?全然。むしろ聞きたいことあれば聞いていいよ。小瀬さんってわかりやすいよな」
真希「うっ…ごめん」
気まずそうな顔をする真希。
結城、背を真希に向けて背を足で挟むように腰掛け直す。
真希「結城くんがバイオリンやってるのって家のためなの…?」
結城「んー、あの人たちは別にやりたければやればいいって言ってたけど、まあ空気読んだよ」
真希「…それで楽しいの?」
背もたれに頬杖をつき笑う結城。
結城「そうだな、義務、が近いな」
真希「義務?」
結城「そう、俺が『結城遥』でいるための」
真希<私はそのとき、彼が抱えてるものの大きさについて初めて知った>
真希<プレッシャーの中、結城くんはしっかり結果を出し続けている>
真希「なんで結城くんみたいな人が都立にいるんだろうね」
結城「あ、俺芸術大学の附属高校落ちてる」
真希「え!?」
結城「いやー、付属高校の先生に習ってたんだけど、色々あって殴っちゃったんだよね」
てへ、と笑う結城。
真希「え、それって…下手したら芸大行けないんじゃ…」
苦笑いする真希。
結城「いや、合格するよ。絶対に。そのためにまずは演奏会に出なきゃいけないんだ。あれには芸大の先生も招待されてるからね」
にっこりと笑う結城。
真希、唾を飲み込む。
真希(なんて人だ…)
真希、「はは」と笑う。
真希「結城くんって根性あるんだね、私の負けだ」
結城、怪訝そうに首を傾げる。
真希「あーあ、悔しいけどちょっとやる気出た。絶対演奏に見合う伴奏弾くから、絶対オーディション合格して、演奏会でぶちかませ!」
結城「は?当たり前だろ?拳じゃなくて音楽でぶちのめしてやる」
拳を真希に向ける結城。真希、結城の拳を拳で叩く。
真希(なんか、意外とちゃんと努力してる人なんだな…ただの天才は大っ嫌いだけど、結城くんはちょっと違うかも…)
真希「てか、そういえば今日ご両親は?挨拶したいんだけど…手土産もあるし」
真希(変な誤解もされたくないし)
結城「あ、今日親いないよ」
真希「は?」
真希<ってことは、結城くんと二人きりですか!?>
焦った顔をする真希。
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