純愛トラップ ー幼馴染の聖くんの裏の顔ー【シナリオ5話まで公開】
第一話 幼馴染との距離
学校の校舎の屋上。
壁ドンの姿勢で会話もなく見つめあう聖と渚。
沈黙に耐えきれず、渚は視線をそらす。
そんな渚をおもしろいものを見る様に、にやりと笑う聖。
聖:「渚どうした?」
面白そうに笑う聖に、渚は堪え切れなくてその腕から逃れようとしながら、
渚:「ねえ、新手の嫌がらせ? 先生どこ?」
振り払った自分の手をあっさり取られ、驚いて渚は聖を見上げた。
ニ十センチは違う聖を見上げてると、真っ直ぐな瞳があり不覚にもドキッとしてしまう、
渚:(なんで今ドキッとしたの! 私! バカ!)
聖;「今ドキッとしただろ?」
渚:「そんなわけないでしょ! 聖相手に」
見透かされた気がしてムキになって言い返す渚。その言葉に少し俯くヒジ。
聖:「へえ。この俺にそんなこというの、おまえだけだな」
低くなった声音に、渚はなんとなく唇をかみしめる。
渚「聖は聖じゃない! ちょっとモデルとかして女の子にモテるからって調子にのるな!」
その時、一瞬で聖が渚を壁に縫い留めてキス。
渚;「なっ!」
目を見開いて呆然とする渚。
そんな渚の手をギュッと握って何度もキスを繰り返す聖に、渚はパニック。
渚:「なんで!」
少し前
生徒が溢れかえる売店。パンの争奪戦に加わっている渚。
渚:「うそ……。一個もないじゃん」
呟いた渚に、男友達が渚の髪をぐちゃぐちゃとしながら笑いかける。
男友達A:「なんだよ、渚。買えなかったのか?」
渚:「今日、なんか人多くない? どうしようかな……お昼」
男友達B渚の肩を組んだまま、パンをひとつ渚に差し出す。
男友達B:「ほら、渚。これやるから……」
そこにざわめく声。綺麗な女の子や、派手な男の先輩たちと一緒の聖が現れる。
みんながその方を見ている。渚もそれをみるがふいっとそこから顔を背ける。
渚:「ありがとう、でも、何か他のもの探すから大丈夫。またね」
その場から去ろうとした渚に、声が聞こえる。
聖:「小門さん、先生に俺たち呼ばれた」
渚:(え?)
聖の周りの女の子:「聖、何かしたの~」「小門さんも?」
渚:(何が小門さんよ……)
その他人行儀な言い方に渚は聞こえなかったふりをしつつ、そこから離れようと足を踏み出す。
渚:(それにしても聖には会いたくないのによりによって一緒に呼び出しくらうなんてついてない)
男友達:「渚、何をぶつぶつ言ってるんだよ。お前呼ばれてない? 王子に」
渚:「王子って誰よ」
渚:(ヤバッ、つい口から出ちゃった)
男友達:「渚は王子に興味になさそうだけど、松藤のことそんなこと言うのお前ぐらいだろうな」
(みんなが笑う)
渚:(これ以上この話題でここにいてもいいことはないな)
渚:「どこに行けばいいの?」
スンとしつつ問いかける渚。平静を装い聖の輪の中に歩いていく。
聖:「悪い、少し言ってくるわ」
仲間:「がんばれよ~」
無言のまま渡り廊下を歩くふたり。
聖:「こっち」
渚:「え? 職員室そっちじゃない……」
何も答えない聖に、仕方なく渚はついて階段を登る。
渚;「あの、松藤君、どこに行くの? どの先生が……」
階段を登り切り、重い鉄の屋上へ続く扉を開く聖。ガチャっと鍵をかける。
渚:「え? なんで鍵をかけるの!」
なんとなく嫌な予感がして逃げようとする渚を、聖がその腕を取って壁に囲う。
壁ドンの姿勢で会話もなく見つめあう聖と渚。
沈黙に耐えきれず、渚は視線をそらす。
そんな渚をおもしろいものを見る様に、にやりと笑う聖。
聖:「渚どうした?」
面白そうに笑う聖に、渚は堪え切れなくてその腕から逃れようとしながら、
渚:「ねえ、新手の嫌がらせ? 先生どこ?」
振り払った自分の手をあっさり取られ、驚いて渚は聖を見上げた。
ニ十センチは違う聖を見上げてると、真っ直ぐな瞳があり不覚にもドキッとしてしまう、
渚:(なんで今ドキッとしたの! 私! バカ!)
聖;「今ドキッとしただろ?」
渚:「そんなわけないでしょ! 聖相手に」
見透かされた気がしてムキになって言い返す渚。その言葉に少し俯くヒジ。
聖:「へえ。この俺にそんなこというの、おまえだけだな」
低くなった声音に、渚はなんとなく唇をかみしめる。
渚「聖は聖じゃない! ちょっとモデルとかして女の子にモテるからって調子にのるな!」
その時、一瞬で聖が渚を壁に縫い留めてキス。
渚;「なっ!」
目を見開いて呆然とする渚。
そんな渚の手をギュッと握って何度もキスを繰り返す聖に、渚はパニック寸前。
渚:「なんで!」
初めてのキスで訳が分からなくなり、渚は聖の唇を噛んでしまう。
聖:「痛っ」
声を上げて離れた聖に、自分はやってしまったことに、渚は逆に慌ててしまう。
渚:「ごめん、大丈夫? 聖!」
唇から血が出ているのがわかり、無意識に渚はそこに触れていた。
聖;「お前って、どこまでバカなの?」
渚(え?)
意味が解らない渚に、聖が自分の唇に指で触れぺろりとなめるのを渚がただ見つめる。
雑誌やテレビのワンシーンのよう。
聖;「今のうちに逃げればよかったんだよ。襲ってきた男の心配するなんてどこまでお人よしなんだ」
その言い方に、怒るよりも泣きそうになる渚。
渚:(こんな聖は知らない)
聖:「先生が呼んでるなんて嘘だよ」
いつものにこやかな笑みではなく冷笑を浮かべる聖。渚が一つに結んでいた髪をほどいてしまう。
渚:「ちょっと、なんで髪ほどくの?!」
聖:「俺がほどく前に、もう崩れてただろ」
渚:(それはそうだけど、私のくせ毛を見て笑うつもりだった?)
渚:「今までほとんど声なんてかけてこなかったのに、急になんなのよ」
聖:「なんでかわかんない?」
渚:「わかるわけないじゃない!」
イジワルな聖に悲しくてゴムを奪い返して一つに結びなおす渚。
その姿に、聖が首筋に唇をよせる。
渚;「なにするのよ!くせ毛がひどくて酷いって笑いたいの?」
聖の唇が触れたところを手で隠しながら、渚が睨みつける。
聖;「違う。お前、いい加減隙ありすぎ」
渚:「何言ってるのよ?」
聖:「いいか渚、俺はもう昔の俺じゃないんだよ」
小さい頃の可愛らしい女の子のような聖を思い出す渚。男勝りの自分の後をずっとついてきていいた隣の幼馴染。
小さい渚:『ひじり! 早くしなさいよ!それでも男の子なの!』
小さい聖;『待ってなぎさちゃん』
渚:(確かに酷い態度を取ってきたかもしれない。私はそんなつもりはなかったが、聖は私のことを恨んでる?)
腕の中に囲い、渚を見下ろす聖。二十センチ以上渚と身長差がある。
渚:(そんなことわかってる。あの頃の可愛かった聖はもういない)
渚:「そんなことはわかってる」
小さく呟いて、キュッと唇をかみしめる渚。
渚:「そして、今の私は聖の周りにいる女の子たちとは違うの! 気まぐれでこんなことしないで! 昔の仕返しのつもり? そんなに私をいじめて楽しいの?」
どんと力いっぱい聖を押して、屋上から出ていく渚。
聖:「渚!」
渚:(なんでそんなこといわれなきゃいけないの。聖のバカ! 聖のバカ。なんでキスなんてしたのよ……。そっか……。毎日いつもいる子にしてるんだろうな……。それとも昔の仕返し? いまさら……)
階段の途中で立ち止まる渚。
渚:(どこかで私は違うって勝手に思ってたな。高校に入ってからまともに話してなかったのに。)
ひとり残された聖。
壁をドンと叩いて、髪をかきあげながら、その場に座り込む。
聖:「バカかよ。俺……」
大きなため息。
二年B組教室 机を合わせながら昼食をみんなで食べている。
理香(友人):「なぎ! 遅かったね」
正也(男友人):「っていうか、パン売り切れてたん?」
昼を買ってくると購買に向かった渚が何も持っていないことに、友人たちが不思議そうに見る。
渚:「あっ、うん」
渚:(なんでこんな……)
梨香;「どうしたの? 何かあった?」
渚:「あっ、うんん。なんでもない」
先ほどのことをこの場で話すことはできず、渚は苦笑する。
廊下の女の子;「渚、さっき聖くんと一緒に歩いてたけどなんだったのよ!」
渚;(うわー、聖の取り巻きめんど……)
梨香;「松藤君? どうして渚がそんなことになってるのよ?」
渚:「え? それは……」
渚:(仕返しにキスされたなんて言えないよなー)
男友達:「何? お前松藤と知り合いだったのかよ?」
渚;(今まで平穏な学校生活だったのに。どうしてたった一度聖といただけでこんなことに)
いろいろなところから詰め寄られる渚。
聖;「たまたま職員室で、俺が松藤を呼ぶようにいわれただけ」
廊下の女の子たちに、笑顔で説明する聖。
女子たち;「でも、職員室と別の方に歩いて行ったって噂」
聖:「見間違いだろ? なんで俺が松藤と?」
あざ笑うように言う聖に、女の子たちは安堵の表情を浮かべる。
女の子:「それもそっか」
梨香;「ちょっと! 勝手なことばっかり言うのやめなさいよ!」
渚:「梨香、いいから」
なだめる渚に梨香は納得いかない表情を浮かべる。
渚;「本当に先生の用事だけだから。私が松藤くんと話すことなんてあるわけないでしょ」
男友達;「そうだよな、渚だもんな」
渚;(聖のせいでどうしてこんな言われ方しなきゃいけないのよ)
苛立ちを隠すように、渚は立あがる。
渚;「とりあえず、お菓子でも買ってくる」
梨香;「一緒にいこうか!?」
渚;「大丈夫。ちょっと行ってくる」
廊下では聖と仲間たち、そしてさっきの取り巻きの女の子が騒いでいる。
その横をすり抜けてその場を離れる渚。
渚;(どうして今更私に関わるのよ)
渚はもう一度屋上に一人で行くと、ひとりで昼休みを過ごした。
放課後 校庭 梨香や友人と下校
梨香;「渚、今日帰りどこか寄る?」
渚:「うーん、今日は帰る、ごめん」
梨香;「また明日ね」
遊びに行くみんなに手を振る渚。そのまま電車に乗って自宅へと帰る。
白い一軒家。自分の家の隣のその建物を見て聖を思い出す。聖家族が住んでいた家は、今は他の人が住んでいる。
ぼんやりと歩く渚。そこで、家の前に立つ人にビクっと肩を揺らす。
渚:「どうしてここにいるの」
聖:何も言わず渚を視界にとらえると、フードを深くかぶって渚の家の前で座っていたがが、そのフードをとり立ち上がる。
聖:「けいこさん、いないぞ」
渚;「お母さん、仕事だから……」
聖;「ふーん」
さほど興味なさそうに言う聖。そこに聞こえる声。
渚母:「渚、家の前でなにやってるのよ?」
そこで聖の姿を母は捉える。
渚母;「聖くん!?」
聖:「久しぶりです。けいこさん」」
ニコッと笑う聖に、渚母は走っていく。
渚母:「いやー。かっこよくなっちゃって! 何してるの? 渚、早く入ってもらいなさいよ。こんな人気者がここにいたら騒ぎになっちゃうわ」
浮かれる母に、渚はそれを阻止しようと声を揚げようとする。
渚;「え? お母さん、ちょっと」
聖:「けいこさん、ありがとうございます」
渚を無視して、家に入っていく二人。
渚:「お母さん!!」
叫んでも全く母は聞いていない。仕方なくふたりの後を追う渚。
渚母;「聖くん久しぶりね~。いつも雑誌も買ってるのよ」
リビングに飾ってあった雑誌を持って、聖に笑いかける渚母。その後、聖にお茶を出す。
聖:「ありがとう」
すっかりくつろぐ聖に、苛立つ渚。
渚:(何しに来たのよ……。ほんとに)
渚母;「聖くん、ご両親はお元気? いつ日本に?」
聖;「けいこさんによろしくって言ってました。帰国は高校と同時に」
渚母;「あら、一年以上前なのね」
驚いた表情の渚母に、聖は柔らかく笑う。誰でも虜にしそうな笑み。
聖:「そうなんですよ、渚と同じ学校だって今日知って」
渚:(どの口が言ってるのよ! 絶対知ってたくせに)
会話はなかったが、何度かすれ違ったことがある。その時、渚のことは気づいていなかったとでもいうのだろうか。(すれ違った回想シーン)を入れつつ、ギュッと唇を噛む渚の絵。
渚;(私はすぐにわかったのに)
そう思ったところでハッと我に返る渚。聖をチラリとみる。
完璧な笑みを浮かべる聖。そして、今日の屋上の聖を思い出す。
渚:(何をしたいの?)
渚母;「そうだったの、あっ、でもまだご両親海外じゃないの?」
渚:(そうだ、聖のお父さんは外交官。みんなで帰国したの?)
そんな疑問が分かったのか、聖は少し寂しそうな表情を浮かべる。
聖:「どしても日本でモデルの仕事も勉強もしたくて、無理を言って一人で帰国したんです」
渚;(一人って……)
つい、高校生でひとり暮らしをする聖の心配をしてしまう渚。そんな自分を叱咤するように表情を硬くする。しかし、渚母と聖はそんな渚のことなど気にせず会話を続ける。
渚母:「食事とかちゃんとしてるの? 仕事も身体が資本でしょ?」
その言葉に、甘えたような、恥ずかしがるような表情を浮かべる聖。
聖:「やっぱり一人だとどうしてもなかなか」
だれでも助けてあげたくなるような表情に、渚母が表情を歪める。
渚母;「渚、聖くんを助けてあげなさい!」
渚;(何言ってるのよ、お母さん!!)
聖;「そんな、大丈夫ですよ」
渚母:「遠慮しないで!」
渚が慌てているのをよそに、聖は母親に遠慮するそぶりをみせたあと、ちいさく息を吐いて渚を見る。
聖:「じゃあ、渚、少し家のこと手伝ってくれない?」
まるで子犬のような、昔の甘えた声で言う聖に唖然とする渚。
(私を脅すように見下ろしていたのは、今日の話しじゃな。学校でもそんな顔したことない)
渚:「ちょっと、お母さん! 仮にも一人暮らしの男の子の家に年頃の娘をやるなんて」
大笑いをする母と聖
渚母:「聖くんとあんたが何かあるわけないじゃない! 聖くんには素敵な彼女がいるんでしょね~」
うっとりと雑誌をめくる母。それを否定しない聖。
渚:(どうしてこんなことに)
都内のタワーマンションを見上げる渚。 第一話 終
壁ドンの姿勢で会話もなく見つめあう聖と渚。
沈黙に耐えきれず、渚は視線をそらす。
そんな渚をおもしろいものを見る様に、にやりと笑う聖。
聖:「渚どうした?」
面白そうに笑う聖に、渚は堪え切れなくてその腕から逃れようとしながら、
渚:「ねえ、新手の嫌がらせ? 先生どこ?」
振り払った自分の手をあっさり取られ、驚いて渚は聖を見上げた。
ニ十センチは違う聖を見上げてると、真っ直ぐな瞳があり不覚にもドキッとしてしまう、
渚:(なんで今ドキッとしたの! 私! バカ!)
聖;「今ドキッとしただろ?」
渚:「そんなわけないでしょ! 聖相手に」
見透かされた気がしてムキになって言い返す渚。その言葉に少し俯くヒジ。
聖:「へえ。この俺にそんなこというの、おまえだけだな」
低くなった声音に、渚はなんとなく唇をかみしめる。
渚「聖は聖じゃない! ちょっとモデルとかして女の子にモテるからって調子にのるな!」
その時、一瞬で聖が渚を壁に縫い留めてキス。
渚;「なっ!」
目を見開いて呆然とする渚。
そんな渚の手をギュッと握って何度もキスを繰り返す聖に、渚はパニック。
渚:「なんで!」
少し前
生徒が溢れかえる売店。パンの争奪戦に加わっている渚。
渚:「うそ……。一個もないじゃん」
呟いた渚に、男友達が渚の髪をぐちゃぐちゃとしながら笑いかける。
男友達A:「なんだよ、渚。買えなかったのか?」
渚:「今日、なんか人多くない? どうしようかな……お昼」
男友達B渚の肩を組んだまま、パンをひとつ渚に差し出す。
男友達B:「ほら、渚。これやるから……」
そこにざわめく声。綺麗な女の子や、派手な男の先輩たちと一緒の聖が現れる。
みんながその方を見ている。渚もそれをみるがふいっとそこから顔を背ける。
渚:「ありがとう、でも、何か他のもの探すから大丈夫。またね」
その場から去ろうとした渚に、声が聞こえる。
聖:「小門さん、先生に俺たち呼ばれた」
渚:(え?)
聖の周りの女の子:「聖、何かしたの~」「小門さんも?」
渚:(何が小門さんよ……)
その他人行儀な言い方に渚は聞こえなかったふりをしつつ、そこから離れようと足を踏み出す。
渚:(それにしても聖には会いたくないのによりによって一緒に呼び出しくらうなんてついてない)
男友達:「渚、何をぶつぶつ言ってるんだよ。お前呼ばれてない? 王子に」
渚:「王子って誰よ」
渚:(ヤバッ、つい口から出ちゃった)
男友達:「渚は王子に興味になさそうだけど、松藤のことそんなこと言うのお前ぐらいだろうな」
(みんなが笑う)
渚:(これ以上この話題でここにいてもいいことはないな)
渚:「どこに行けばいいの?」
スンとしつつ問いかける渚。平静を装い聖の輪の中に歩いていく。
聖:「悪い、少し言ってくるわ」
仲間:「がんばれよ~」
無言のまま渡り廊下を歩くふたり。
聖:「こっち」
渚:「え? 職員室そっちじゃない……」
何も答えない聖に、仕方なく渚はついて階段を登る。
渚;「あの、松藤君、どこに行くの? どの先生が……」
階段を登り切り、重い鉄の屋上へ続く扉を開く聖。ガチャっと鍵をかける。
渚:「え? なんで鍵をかけるの!」
なんとなく嫌な予感がして逃げようとする渚を、聖がその腕を取って壁に囲う。
壁ドンの姿勢で会話もなく見つめあう聖と渚。
沈黙に耐えきれず、渚は視線をそらす。
そんな渚をおもしろいものを見る様に、にやりと笑う聖。
聖:「渚どうした?」
面白そうに笑う聖に、渚は堪え切れなくてその腕から逃れようとしながら、
渚:「ねえ、新手の嫌がらせ? 先生どこ?」
振り払った自分の手をあっさり取られ、驚いて渚は聖を見上げた。
ニ十センチは違う聖を見上げてると、真っ直ぐな瞳があり不覚にもドキッとしてしまう、
渚:(なんで今ドキッとしたの! 私! バカ!)
聖;「今ドキッとしただろ?」
渚:「そんなわけないでしょ! 聖相手に」
見透かされた気がしてムキになって言い返す渚。その言葉に少し俯くヒジ。
聖:「へえ。この俺にそんなこというの、おまえだけだな」
低くなった声音に、渚はなんとなく唇をかみしめる。
渚「聖は聖じゃない! ちょっとモデルとかして女の子にモテるからって調子にのるな!」
その時、一瞬で聖が渚を壁に縫い留めてキス。
渚;「なっ!」
目を見開いて呆然とする渚。
そんな渚の手をギュッと握って何度もキスを繰り返す聖に、渚はパニック寸前。
渚:「なんで!」
初めてのキスで訳が分からなくなり、渚は聖の唇を噛んでしまう。
聖:「痛っ」
声を上げて離れた聖に、自分はやってしまったことに、渚は逆に慌ててしまう。
渚:「ごめん、大丈夫? 聖!」
唇から血が出ているのがわかり、無意識に渚はそこに触れていた。
聖;「お前って、どこまでバカなの?」
渚(え?)
意味が解らない渚に、聖が自分の唇に指で触れぺろりとなめるのを渚がただ見つめる。
雑誌やテレビのワンシーンのよう。
聖;「今のうちに逃げればよかったんだよ。襲ってきた男の心配するなんてどこまでお人よしなんだ」
その言い方に、怒るよりも泣きそうになる渚。
渚:(こんな聖は知らない)
聖:「先生が呼んでるなんて嘘だよ」
いつものにこやかな笑みではなく冷笑を浮かべる聖。渚が一つに結んでいた髪をほどいてしまう。
渚:「ちょっと、なんで髪ほどくの?!」
聖:「俺がほどく前に、もう崩れてただろ」
渚:(それはそうだけど、私のくせ毛を見て笑うつもりだった?)
渚:「今までほとんど声なんてかけてこなかったのに、急になんなのよ」
聖:「なんでかわかんない?」
渚:「わかるわけないじゃない!」
イジワルな聖に悲しくてゴムを奪い返して一つに結びなおす渚。
その姿に、聖が首筋に唇をよせる。
渚;「なにするのよ!くせ毛がひどくて酷いって笑いたいの?」
聖の唇が触れたところを手で隠しながら、渚が睨みつける。
聖;「違う。お前、いい加減隙ありすぎ」
渚:「何言ってるのよ?」
聖:「いいか渚、俺はもう昔の俺じゃないんだよ」
小さい頃の可愛らしい女の子のような聖を思い出す渚。男勝りの自分の後をずっとついてきていいた隣の幼馴染。
小さい渚:『ひじり! 早くしなさいよ!それでも男の子なの!』
小さい聖;『待ってなぎさちゃん』
渚:(確かに酷い態度を取ってきたかもしれない。私はそんなつもりはなかったが、聖は私のことを恨んでる?)
腕の中に囲い、渚を見下ろす聖。二十センチ以上渚と身長差がある。
渚:(そんなことわかってる。あの頃の可愛かった聖はもういない)
渚:「そんなことはわかってる」
小さく呟いて、キュッと唇をかみしめる渚。
渚:「そして、今の私は聖の周りにいる女の子たちとは違うの! 気まぐれでこんなことしないで! 昔の仕返しのつもり? そんなに私をいじめて楽しいの?」
どんと力いっぱい聖を押して、屋上から出ていく渚。
聖:「渚!」
渚:(なんでそんなこといわれなきゃいけないの。聖のバカ! 聖のバカ。なんでキスなんてしたのよ……。そっか……。毎日いつもいる子にしてるんだろうな……。それとも昔の仕返し? いまさら……)
階段の途中で立ち止まる渚。
渚:(どこかで私は違うって勝手に思ってたな。高校に入ってからまともに話してなかったのに。)
ひとり残された聖。
壁をドンと叩いて、髪をかきあげながら、その場に座り込む。
聖:「バカかよ。俺……」
大きなため息。
二年B組教室 机を合わせながら昼食をみんなで食べている。
理香(友人):「なぎ! 遅かったね」
正也(男友人):「っていうか、パン売り切れてたん?」
昼を買ってくると購買に向かった渚が何も持っていないことに、友人たちが不思議そうに見る。
渚:「あっ、うん」
渚:(なんでこんな……)
梨香;「どうしたの? 何かあった?」
渚:「あっ、うんん。なんでもない」
先ほどのことをこの場で話すことはできず、渚は苦笑する。
廊下の女の子;「渚、さっき聖くんと一緒に歩いてたけどなんだったのよ!」
渚;(うわー、聖の取り巻きめんど……)
梨香;「松藤君? どうして渚がそんなことになってるのよ?」
渚:「え? それは……」
渚:(仕返しにキスされたなんて言えないよなー)
男友達:「何? お前松藤と知り合いだったのかよ?」
渚;(今まで平穏な学校生活だったのに。どうしてたった一度聖といただけでこんなことに)
いろいろなところから詰め寄られる渚。
聖;「たまたま職員室で、俺が松藤を呼ぶようにいわれただけ」
廊下の女の子たちに、笑顔で説明する聖。
女子たち;「でも、職員室と別の方に歩いて行ったって噂」
聖:「見間違いだろ? なんで俺が松藤と?」
あざ笑うように言う聖に、女の子たちは安堵の表情を浮かべる。
女の子:「それもそっか」
梨香;「ちょっと! 勝手なことばっかり言うのやめなさいよ!」
渚:「梨香、いいから」
なだめる渚に梨香は納得いかない表情を浮かべる。
渚;「本当に先生の用事だけだから。私が松藤くんと話すことなんてあるわけないでしょ」
男友達;「そうだよな、渚だもんな」
渚;(聖のせいでどうしてこんな言われ方しなきゃいけないのよ)
苛立ちを隠すように、渚は立あがる。
渚;「とりあえず、お菓子でも買ってくる」
梨香;「一緒にいこうか!?」
渚;「大丈夫。ちょっと行ってくる」
廊下では聖と仲間たち、そしてさっきの取り巻きの女の子が騒いでいる。
その横をすり抜けてその場を離れる渚。
渚;(どうして今更私に関わるのよ)
渚はもう一度屋上に一人で行くと、ひとりで昼休みを過ごした。
放課後 校庭 梨香や友人と下校
梨香;「渚、今日帰りどこか寄る?」
渚:「うーん、今日は帰る、ごめん」
梨香;「また明日ね」
遊びに行くみんなに手を振る渚。そのまま電車に乗って自宅へと帰る。
白い一軒家。自分の家の隣のその建物を見て聖を思い出す。聖家族が住んでいた家は、今は他の人が住んでいる。
ぼんやりと歩く渚。そこで、家の前に立つ人にビクっと肩を揺らす。
渚:「どうしてここにいるの」
聖:何も言わず渚を視界にとらえると、フードを深くかぶって渚の家の前で座っていたがが、そのフードをとり立ち上がる。
聖:「けいこさん、いないぞ」
渚;「お母さん、仕事だから……」
聖;「ふーん」
さほど興味なさそうに言う聖。そこに聞こえる声。
渚母:「渚、家の前でなにやってるのよ?」
そこで聖の姿を母は捉える。
渚母;「聖くん!?」
聖:「久しぶりです。けいこさん」」
ニコッと笑う聖に、渚母は走っていく。
渚母:「いやー。かっこよくなっちゃって! 何してるの? 渚、早く入ってもらいなさいよ。こんな人気者がここにいたら騒ぎになっちゃうわ」
浮かれる母に、渚はそれを阻止しようと声を揚げようとする。
渚;「え? お母さん、ちょっと」
聖:「けいこさん、ありがとうございます」
渚を無視して、家に入っていく二人。
渚:「お母さん!!」
叫んでも全く母は聞いていない。仕方なくふたりの後を追う渚。
渚母;「聖くん久しぶりね~。いつも雑誌も買ってるのよ」
リビングに飾ってあった雑誌を持って、聖に笑いかける渚母。その後、聖にお茶を出す。
聖:「ありがとう」
すっかりくつろぐ聖に、苛立つ渚。
渚:(何しに来たのよ……。ほんとに)
渚母;「聖くん、ご両親はお元気? いつ日本に?」
聖;「けいこさんによろしくって言ってました。帰国は高校と同時に」
渚母;「あら、一年以上前なのね」
驚いた表情の渚母に、聖は柔らかく笑う。誰でも虜にしそうな笑み。
聖:「そうなんですよ、渚と同じ学校だって今日知って」
渚:(どの口が言ってるのよ! 絶対知ってたくせに)
会話はなかったが、何度かすれ違ったことがある。その時、渚のことは気づいていなかったとでもいうのだろうか。(すれ違った回想シーン)を入れつつ、ギュッと唇を噛む渚の絵。
渚;(私はすぐにわかったのに)
そう思ったところでハッと我に返る渚。聖をチラリとみる。
完璧な笑みを浮かべる聖。そして、今日の屋上の聖を思い出す。
渚:(何をしたいの?)
渚母;「そうだったの、あっ、でもまだご両親海外じゃないの?」
渚:(そうだ、聖のお父さんは外交官。みんなで帰国したの?)
そんな疑問が分かったのか、聖は少し寂しそうな表情を浮かべる。
聖:「どしても日本でモデルの仕事も勉強もしたくて、無理を言って一人で帰国したんです」
渚;(一人って……)
つい、高校生でひとり暮らしをする聖の心配をしてしまう渚。そんな自分を叱咤するように表情を硬くする。しかし、渚母と聖はそんな渚のことなど気にせず会話を続ける。
渚母:「食事とかちゃんとしてるの? 仕事も身体が資本でしょ?」
その言葉に、甘えたような、恥ずかしがるような表情を浮かべる聖。
聖:「やっぱり一人だとどうしてもなかなか」
だれでも助けてあげたくなるような表情に、渚母が表情を歪める。
渚母;「渚、聖くんを助けてあげなさい!」
渚;(何言ってるのよ、お母さん!!)
聖;「そんな、大丈夫ですよ」
渚母:「遠慮しないで!」
渚が慌てているのをよそに、聖は母親に遠慮するそぶりをみせたあと、ちいさく息を吐いて渚を見る。
聖:「じゃあ、渚、少し家のこと手伝ってくれない?」
まるで子犬のような、昔の甘えた声で言う聖に唖然とする渚。
(私を脅すように見下ろしていたのは、今日の話しじゃな。学校でもそんな顔したことない)
渚:「ちょっと、お母さん! 仮にも一人暮らしの男の子の家に年頃の娘をやるなんて」
大笑いをする母と聖
渚母:「聖くんとあんたが何かあるわけないじゃない! 聖くんには素敵な彼女がいるんでしょね~」
うっとりと雑誌をめくる母。それを否定しない聖。
渚:(どうしてこんなことに)
都内のタワーマンションを見上げる渚。 第一話 終
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