喪服令嬢は復讐劇の幕を開ける~バカ王子が盟約を破ったので遠慮無く滅ぼさせて頂きます~
これでサラティーローズ様が消えることはなくなった。
王の悲鳴が耳障りだったが、これで大方の目的は達成だ。
王妃は命乞いやら罵倒やら、支離滅裂なので黒薔薇の香りを嗅がせて眠って貰った。
漆黒の棘はなおもこの国を覆い尽くす。
「ソロモン、いつまで死んだぶりしているの。置いていくわよ」
「あー、バレてた? ちょっとは心配した?」
「全然」
「なんだつまらないな」
玉座の間で倒れていた彼はため息交じりに起き上がった。貫かれた背中に傷はない。破れた服も元通りに戻っている。
王は目を見開き、悲鳴を上げた。すでに王らしさなど微塵もなく、年老いた哀れな男にしか見えない。
「それでは要件は済んだので失礼します」
「じゃあね~」
相変わらず密着して私を抱きかかえたソロモンは、転移魔法を発動し、玉座の間から国の上空へと移動した。
夜明け前の空は空気が澄んでいるのか、風が心地よく感じた。
この世界における神様もまた元の世界に似て、恵みと厄災の二つの側面があった。神社仏閣で崇める神と、自然災害や怨念によって神の側面として生み落とされた妖怪あるいは祟神。表裏一体として解釈した場合、この世界において私は女神の側面になると決めたのだ。
優しい女神様を守るために、ずっとこの地に縛り付けられ、罵られ、奪われ続けてきた怨嗟を解放する。
黒い棘はあっという間にロザラウルス国を覆い尽くした。
誰も逃さない。報いは受けてもらう。
「それで次はどうする? 景気よく頭上から隕石でも落としてみる?」
「そんなことしてどうするのよ。あと何処触っているの」
「えー、いいだろう?」
やたらベタベタと密着して暑苦しい。そんなに女に飢えているのなら私以外で満たしてくれないだろうか。
「俺たち一蓮托生の共犯者なんだ、もっと仲良くやろうぜ」
「イヤよ。手は組んでいるけれど馴れ合うつもりはないから」
「ええー、酷い。せっかく新婚旅行のプランまで考えたのに」
潤んだ瞳で見つめても私には通用しない。
そんなので落ちるような女ではないのだ。残念ながら。
「死にたがりは好きじゃないの」
「残念。でもじゃあ、賭けをしよう」
「賭け?」
ソロモンは自信満々に色気たっぷりの笑顔で囁く。
「そう。俺を殺してくれるのが先か、俺に惚れるのが先か」
享楽主義にも困ったものだ。
神様にも色々いるのだろう。
この神様は女神様とは異なり、この土地に体の一部を封じられたという。全ての体の部位が揃わないと死ねないらしい。
今の姿は仮のようなものだとか。
元の世界では復活させないために、遺体をバラバラにして祀っている神社仏閣があったが、この世界ではどうやら意味合いが違うようだ。
人間味があり女好きで、距離が近く馴れ馴れしい。
何故好かれているのかまったく分からないが、協力者として彼の手を取ったときに決めた約束事は守りたい。
「そう。じゃあ、約束通りちゃんと貴方を殺してあげるわ」
「いいね。メアリーのそういうところが俺は好きだよ」
「意味が分からない」
「はははっ(君は俺たちを思って泣いてくれる子だから)俺は君を愛しているって話」